『ユリイカ』2006年9月臨時増刊【総特集稲垣足穂】★★★★☆

 まずは手にとってうっとり。表紙〜表紙裏〜目次ページにまたがってエッセイが掲載されています。収録作一篇をまるまるブックデザインにしてしまったわけです。IとTを組み合わせたレタリングがそのままタイトルバックに。音符のようにもみえる丸と三角(タルホだ!)の組み合わせ。つるつるにコーティングされていないさらさらした手触りの表紙。雑誌どころか愛蔵版といってもいい。

 収録されているのは、足穂に関する資料、『ユリイカ』名物の評論、イラスト&漫画、足穂についての対談・インタビュー、そして新発見作品。何と言っても対談&インタビューと新発見作品が圧巻でした。

 内容は、加藤郁乎×松山俊太郎×渡辺一考による鼎談、荒俣宏×あがた森魚による対談、松岡正剛インタビュー。荒俣・あがたのファン対談にも捨てがたい味わいがありますが、足穂に近しかった加藤郁乎や松岡正剛が語るエピソードの端々にシビレてしまう。足穂の人となりが伝わってきます。いかにも昔の物書きらしく、生きていることそのものが一つのエピソードになってしまうあたり、単なる思い出話や伝記的事実に収まらない魅力がありました。足穂の評論というとかなりわかりづらいものがありますが、この対談・インタビューはその解説や補足の役割も担っています。語られるエピソードを読んでいると、ああ、そういうことなのか、と腑に落ちる。

 新発見作品は、若書きの評論から『一千一秒物語』を思わせるリリカルな小品まで、幅広く10篇が収録されています。朔太郎宅で見たあべこべの立体写真から妄想が広がる「雲を消す話」が個人的には印象に残りました。これが創作作品だということを割り引いても、朔太郎と足穂という二つの才能がツーカーで響き合っている様子は読んでいてぞくぞくするし、それこそ手品のように雲をぱっと消し、現実をぱっと消してしまう手際が絶妙です。

 解題によると新発見作品は全部で69篇もあったそうです。いつの日かそのすべてが、本書のような優れたデザインで刊行されてほしいものです。
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