『敗北への凱旋』連城三紀彦(講談社ノベルス)★★★★☆

 またとんでもないスケールの作品です。ある古典短篇で有名なアイデアなんだけれど、普通であれば長篇に利用したって荒唐無稽になっちゃうくらいスケールがでかすぎるアイデアを、傑作にしちゃうんだものなあ。

 あまりにもミステリ的な動機のインパクトが強いけれど、殺人事件のトリックや凝りまくった暗号も贅を尽くした豪華な一篇。しかも、(著者のことばで著者自身が明かしているから問題ないと思うけれど)ショパン上田敏という(気取りと言われかねない)美しさ。

 米澤穂信が解説で引用していますが、「この曲を誰に伝えたらいいのですか」(中略))/「日本へ――」という箇所、これ自体がちょっとロマンチックで魅力的なエピソードなのですが、真相がわかってからこの会話の意味に気づくと衝撃を受けました。

 ただ、真犯人が口にする「処刑」というのはピンとこない。個人的な動機を越えてってことなんだろうけれど、ここだけはちょっと強引な気もする。要するに恋愛部分がうまくはまってないかな、というのは贅沢な注文か。

 カバーイラストが上村一夫

 終戦後まもないクリスマスイブ、安宿で片腕の男の死体が見つかった。容疑者の中国人女性・玲蘭《リンラン》は彼の情婦をも殺し、自らも身を投げる。痴情のもつれと見られた事件の背後には、恐るべき陰謀と愛の悲劇が隠されていた。男が残した美しい旋律を手がかりに、戦争に翻弄された男女の数奇な運命が今、明かされる!(裏表紙あらすじより)
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