『美しい魂 無限カノン2』島田雅彦(新潮文庫)★★★★★

 作中で皇太子自身が、いまここには『源氏物語』の世界はないと述べる場面がある。ああ、そうか。これって源氏物語でもあったのか、と気づく。皇太子を一人の男として描くことが不敬に当たるのならば、これは確かに充分な不敬小説と呼べる。ここにいるのは、恋をする紛れもないただの一人の人間だもの。象徴でも特別な存在でもない。カヲルや不二子やアンジュとともに、堂々と三角/四角関係を一角を担っている魅力的な登場人物の一人なのだ。

 すごいことだよねえ。天皇を解放してしまった。まずこのことに感動した。それも、誰がどう見てもモデルがわかる現代小説として。歌舞伎みたいに歴史物にはしなかった。かっこいいな。小説もかっこいいし、描かれている皇太子もかっこいいのだ。

 第一部を読み終えたときには、天皇というのは名前だけで、まさか本人が現れるとは思わなかった。しかもお決まりのパターン(冷静沈着な貴公子=皇太子VS熱血な異端児=カヲル)という図式で、ものの見事に冷静な貴公子役を演じきっている。

 それでこそライバルのやんちゃ者が引き立つというものです。恋愛ものでもバトルものでも、強力で魅力的なライバルや障壁がある方が盛り上がる。

 ここにきて「カヲル」という表記の意味も自ずからわかる。不義の子、薫。百年の恋どころではない。源氏物語の血を引く千年の恋の後継者なのだ。

いよいよ盛り上がってきたところで、次は第三部完結篇です。

 東海岸に渡った不二子を追い、ついに想いの丈を伝えたカヲルは、この恋にふさわしい男になるため、天性の美声をさらに鍛えることを決意する。しかし、このときはまだ、静かな森の奥で、美しく成長した不二子を見つめる、比類無き恋敵の存在には気づいていなかった……。血族四代が悲恋の歴史を刻む〈無限カノン〉の物語は、甘美なる破滅の予兆をたたえ、禁断の佳境へ深く踏み込んでいく。(裏表紙あらすじより)
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