『ガラスのなかの少女』ジェフリー・フォード/田中一江訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★★★★★

 相変わらず、ほかの作家が書けば失笑ものになりかねない際どいネタを、めくるめくエンターテインメントに仕立て上げています。読みごたえのある文章とぐいぐい引き込む巧みなストーリーテリングが両立しているのは、最近の作家のなかでもピカ一。

 早川の刊行物なのでジェフリイ表記だと思っていたのだが、ジェフリー表記だったことに気づく。『SFマガジン』掲載の「イーリン・オク伝」はジェフリイ表記だったような気が?

 『The Girl In the Glass』Jeffrey Ford,2005年。

 いんちき霊媒師のシェルと元サーカスの怪力男アントニークレオパトラと不法移民の子ども“偉大なる聖者《スワミ》”ディエゴの三人から成るファミリーのキャラが楽しい。彼らの詐欺の手際と仲のいい会話だけでも充分に面白い。お洒落でも何でもないごく普通の会話なんだけれど、端々から三人の絆が伝わってくる。

 やがて怪しげな情報がぞくぞくと明らかになり、謎が謎を呼ぶ展開に、登場人物ともども振り回されることになるのだが、バカっぽいアイデアでも許せてしまう勢いがある。登場人物が時折かいま見せる寂しさのようなものも、取って付けではなく物語を引き締めるのに役立っている。

 無茶なアイデア+絶妙のストーリーテリング+読みごたえのある文体+幻想味+仄かなユーモア+ほろりとする場面=というのがジェフリー・フォードの魅力だろう。

 ちょっと幻想風味から、クライマックスはアクションになるのもフォード節。いつものごとく怪物あり(^_^)、そして銃撃戦あり。今回はサーカスのフリークスたちが活躍する。何というか、暴力に挑むにしても自分たちの武器は飽くまで〈詐欺〉、トリックなのだといわんばかりの遊び心がうれしい。だからこそディエゴが、「人が命を落とした」ことに「胸がむかむか」する場面は、ささやかだけれど重みがある。

 著者がジェフリー・フォードなわけだから、いくらアメリカ探偵作家クラブ賞受賞とはいっても、ミステリを期待する人はいないと思うけど、まあ念のため。『シャルビューク夫人の肖像』を読んだとき同様、意外とミステリじゃん、と思いました。

 降霊会が開かれる邸で起きた不可思議な出来事。数日前から行方不明になっていた少女の姿が、突如ガラスに浮かびあがったのだ……いんちき降霊術師ディエゴら一行は少女の行方を追い、彼女が謎の幽霊におびえていた事実を知る。まもなく本物の霊媒師を名乗る美女の導きで、ディエゴらは少女の居場所に辿りつく。そこで見たおぞましいものとは? 幻惑的筆致で読者を驚愕させる著者が放つ、アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。(裏表紙あらすじより)
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