『ミステリマガジン』2008年03月No.625号【海外ミステリ・ドラマに釘付け】★★★☆☆

 今月は海外ミステリ・ドラマ特集。日本のドラマは三流以下だけど、海外ドラマだって安っぽくてつまんないと感じている人間には魅力のない特集でした。

「デイヴィッド・カルーソの語る「CSI」事情」

「ロブソン・グリーンの語る「Wire in the Blood 3」事情」

「「CSI」は現代の“Whodunit”ホレイショ・ケインは今日もかっこいい」大倉崇裕
「CSIシンドローム若竹七海

 ああ、なるほど。若竹七海が「すごい」と感じた部分を、わたしはチープだと感じてしまったのだ。「マイアミ」に限って言えば、それは「特攻野郎Aチーム」を面白いと感じるような面白さだと思っていいのだろうか。
 

「ジャック・ウェッブの星」リー・ゴールドバーグ/高橋知子(Jack Webb's Star,Lee Goldberg,2007)★★★☆☆
 ――ジャック・ウェッブが好きな妻のためにある計画を立てる。成功すれば、妻の愛も多少は戻ってくるかもしれないのだが――(あらすじより)

 物語自体はドラマのノヴェライズではなく、ドラマのファンが登場する作品であるに過ぎないのだけれど、著者が『名探偵モンク』のスタッフなのだそうです。最近の英米ミステリによくある、駄目人間のぐだぐだした日常と心理と犯罪。作品自体は悪くはないが、アメリカものにはこの手の作品が多すぎて食傷気味。
 

「魂の調教師」リンダ・ラ・プラント/奥村章子訳(The Keeper of Souls,Lynda La Plante,1994)★★★★☆
 ――「わたしはジェイン・テニスンよ。座ってもいい?」「ああ」「ホームには何歳のときに入ったの?」「十歳のときだ」「性的な虐待はいつからはじまったの?」「二日目だったか、三日目だったか」「話してくれて感謝してるわ。なんとしてでも彼を刑務所に送り込んでやるわ。約束する」「まだ逮捕すらしてないんだろ?」

 『第一容疑者』シリーズの原作・脚本家。シリーズものの番外編といった趣の作品であるにもかかわらず(作品の一部らしい)、シリーズを知らない人間にも楽しめます。なんかメグレっぽい。相手に対する優しさと犯罪者に対する怒りとどうにもならないことに対する視線とか。メグレより俗っぽくて感情的だけれど。
 

「教師コジャックアビー・マン/三角和代訳(The Way of a Cop,Abby Mann,1994)★★☆☆☆
 ――犯罪学講座で教えることになった刑事コジャックの楽しみとは?(あらすじより)

 『刑事コジャック』の脚本も担当したことのある作家・脚本家・監督。これは『刑事コジャック』のファン以外には楽しめないでしょ。犯罪捜査学校版ささやかな成長物語な感じだが、その内容がしょぼすぎる。道徳の教科書みたい。
 

「海外ミステリ・ドラマに釘付け エッセイ」小山正・木村二郎
 小山氏は珍作ノヴェライズや有名作家が手がけたノヴェライズを紹介。『刑事コロンボ』「二枚のドガの絵」ノヴェライズが瀬戸川猛資の手になるものだなんて知らなかったよ。

 特集はここまで。
 

「『北の迷宮』著者ジェイムズ・チャーチルに訊く」

「ミステリの話題/『戦火の中で』――『石の花』とミステリ」古山裕樹

「迷宮解体新書 第3回」岸田るり子

「私の本棚 第3回」影山徹

「私もミステリの味方です 第3回」渡辺博史

「追悼 平井イサク」編集部・田向真一郎

「ミステリ・ヴォイスUK 第3回 推理ドラマの浮き沈み」松下祥子
 

「独楽日記」佐藤亜紀(第3回 小説のルール)
 お、続・小説のストラテジーだ。
 

「新・ペイパーバックの旅 第24回=五〇年代のペイパーバック・ヒーロー」小鷹信光
 

「書評など」
ジェイムズ・グレイディ『狂犬は眠らない』bk1amazon]がめちゃくちゃ面白そうです。『コンドルの六日間』の続編というかスピンオフ作品らしいのだけれど、精神病院に収容されていてクスリを飲まなければ頭がいかれてしまう元スパイ五人が、「元スパイならではの特技を生かし」、「頭がいかれるまで一週間というタイムリミットつきで犯人を見つけ」出す云々。「正気じゃ考えつかないアイデアが功をなす、そのおかしさ」だそうです。

ジーブスものの最新訳ウッドハウスジーヴスと恋の季節bk1amazon]は「邦訳されたシリーズ長篇の中では、もっとも洗練されたプロットの作品」なのだとか。これまでだって決して完成度が低いというわけではなかったのだし、となるとかなり期待できそう。佐藤正午と聞いて、佐藤哲也と勘違いしてた。でも「こんな上手い作家はいないという評判」なんだって。

理論社のミステリーYA、倉阪鬼一郎『ブランク』は、いきなり登場人物の頭が破裂するらしい。ミステリーランドもそうだけど、子ども向け=甘めの作品という枷が外されてきたみたいで何より。『日本版シャーロック・ホームズの災難』を読むと、海外版のシャーロック・ホームズの栄冠』も読みたくなってきます。天城一都筑道夫、足穂、柴錬、等々とにかく収録作家が豪華。

恩田陸『いのちのパレード』は、『SFマガジン』にも書評がありましたが、異色作家短篇集へのオマージュとのこと。そしてずいぶんと紹介する文章に力のこもっているのが津原泰水ルピナス探偵団の憂愁』。「四つの短篇は、時間をさかのぼるように並べられて」おり、「この構成は、最終話のラストにおいてたいへんな効果を発揮するのだ。読み手の脳裏には第一話の四人(決して三人ではない)の姿、想いがふたたび、それも何倍にもなって涌きあがるに違いない」とある。わたしの好きそうな話だ。

ねじめ正一荒地の恋は、詩人グループの「荒地」をめぐるフィクション。それはそれで興味はあるのだが何故『ミステリマガジン』で?と思ったら、田村隆一鮎川信夫加島祥造北村太郎――ミステリの翻訳者でもあったのでしたとさ。なあるほど。

「文芸とミステリの狭間」風間賢二
 『S-Fマガジン』でも紹介されていたスカーレット・トマス『Y氏の終わり』bk1amazon]は、「ジャンル混交なんでもあり娯楽小説の王道」つーことで要チェック。
 

「SFレビュウ」大森望
 チャールズ・ストロス『残虐行為記録保管所』は、「“クトゥルーの邪神が実在する世界”に納得のいく理由を考える話」なのだとか。こういう紹介のされ方をすると気になるなあ。
 

「紫の鳥の秘密(中編)」エラリイ・クイーンJr./駒月雅子訳(The Purple Bird Mystery,Ellery Queen Jr.,1965)
 前号の続き。完結してから読もうと思ってるんだけど、そうやって後回しに後回しになってっちゃうんだろうなあ。。。
 

「座談会連載 第3回 『新・世界ミステリ全集』を立ち上げる」北上次郎新保博久池上冬樹・羽田詩津子
 各ジャンルの担当者が自分のお薦めを選ぶ作業に入りました。冒険小説は疎いので、アルベアト・バスケイス・フィゲロウア『自由への逃亡』とかウィルバー・スミス『虎の眼』とか知らなかった。『自由への逃亡』は登場人物が犬と囚人だけってのが面白そう。ハードボイルドでは池上さん偏愛のジェローム・チャーリン『パラダイス・マンと女たち』って、名前を聞いたことはあるのにな……と思って確認してみたら「ミステリアス・プレス文庫」なのか。どうもプレス文庫はハズレが多い印象なんだよなあ。コージーとロマンティック・サスペンスの話から、前回の全集では不遇だったクレイグ・ライスマーガレット・ミラーの話に。
 

ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか? 第119回 探偵小説の終焉と叙述トリック
 

「夜の放浪者たち――モダン都市小説における探偵小説未満 第39回 尾崎翠「映画漫想」前編」野崎六助
 花田清輝『恥部の思想』からの引用があって、久しぶりに尾崎翠だけでなく花田清輝も読み返したくなった。と思ったのに、文芸文庫が軒並み絶版だぁ_| ̄|○
 

「海外ベストセラー」
 ドイツのランキングが紹介されているのですが、『ひつじ探偵団』が二年近く経った今でも三位なのだそうだ。これが、あるべき姿だと思う。翻って日本のベストセラーはシドイ。。。

「ムービー・ウォッチ」竜弓人
 『スウィーニー・トッド』のほかヒトラーの贋札。ナチが贋札造りのユダヤ人に収容所で贋札を作らせ、英国経済を崩壊させようとした話。これだけでも面白いのだが、贋札とばれたら処刑されてしまうため必死で精度を上げようとしたというくだりに、不謹慎ながらルーフォック・オルメスを思い出してしまった。
 

ポルトガルの四月 6」浅暮三文

「藤村巴里日記 11」池井戸潤

「ファイナル・オペラ 5」山田正紀
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