『The Separation』Christopher Priest,2002年。
えええっ!て感じでした。「語り=騙り」と書かれているけれど、小説としての仕掛けが解けてもなお、小説のルール自体を打ち壊すような宙ぶらりんさは残ったままなので、何か頭がくらくらします。いや、だってこれ、これじゃあ最後に語り手が消えてしまうのでは?
SF的な趣向を除けばかなり地味な作品です。双子とはいっても『奇術師』のような骨肉相食む愛憎劇ではなくって、一人一人の人生がそれぞれ語られて、ところどころで微妙にリンクする感じ。二人がしょっちゅう会っている設定にしてしまうと、趣向からいって半端じゃなく複雑怪奇な物語になってしまうだろうから、落ち着いた雰囲気なのは当然といえば当然かな。
とは言っても、内容はすごい。なにしろルドルフ・ヘスやウィンストン・チャーチルと関わり、歴史上それなり及び重大な役目を担ってしまうのだから。ヘスが替え玉なのではないか?というのは有名な噂(都市伝説?)だけど、主役の双子意外にも影武者というそっくりさんまで加わって鏡像が作り出されています。
構成はざっぱらぱあであんまり美しくないのだけれど、死んでいたのが兄だったら、いや弟だったら?死んでいたのが替え玉だったら、いや本人だったら?――いやそっくりなんだからどちらが死んだとしても変わりはないんじゃ……?というSF的趣向とミステリ的趣向を見事に融合させた作品でした。
一人の女をめぐる恋愛小説、ヘスとチャーチルをめぐる歴史小説としても、二度おいしい作品なのでした。
表と裏で微妙に違うカバーもよいです。
大森望氏のかなりつっこんだ解説(あらすじ紹介?)が助かります。あと、ようやく〈プラチナ・ファンタジイ〉のロゴマークができたんですね。でもちっちゃくて星の中身が何なのかよくわからない。目?羽根?
1999年英国、著名な歴史ノンフィクション作家スチュワート・グラットンのもとに、第二次世界大戦中に活躍した空軍大尉J・L・ソウヤーの回顧録のコピーが持ちこまれる。グラットンは、自作の題材として、第二次大戦中の英国首相ウィンストン・チャーチルの回顧録のなかで記されている疑義――英空軍爆撃機操縦士でありながら、同時に良心的兵役拒否者であるソウヤーなる人物(いったい、そんなことが可能なのか?)――に興味をもっており、雑誌に情報提供を求める広告を出していた。ソウヤーの回顧録を提供した助勢アンジェラ・チッパートン(旧姓ソウヤー)は、自分の父親は第二次大戦中、爆撃機操縦士を務めていたと言う。果たして、彼女の父親はほんとうにグラットンの探しているソウヤーなのだろうか?
作家の棲む現実から幕を開けた物語は、ジャックとジョーという同じイニシャル(J)をもった二人の男を語り手に、分岐したそれぞれの歴史の迷宮をひたすら彷徨していく……。(カバー袖あらすじより)
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