『S-Fマガジン』2014年11月号No.704【30年目のサイバーパンク】

「SF COMIC SHORT-SHORT」(10)今井哲也
 

「パパの楽園」ウォルター・ジョン・ウィリアムズ酒井昭伸(Daddy's World,Walter Jon Williams,1999)★★★★☆
 ――ある日のこと、ジェイミーは家族と一緒に新しい土地へ引っ越した。住んでいるのは旋風人と呼ばれる頭頂部の尖った人々だった。妹のベッキーも一緒になって楽しんだけれど、ベッキーはだんだんと遊ばなくなり、とうとうジェイミーより年上になってしまった。そしてジェイミーは知った。自分が電子的なコピーだということを。

 サイバーパンクというから身構えてしまいましたが、三作とも普段SFマガジンに載っている作品群と何ら変わりはありませんでした。それどころかむしろサイバーパンクとしてもSFとしても手垢の付いた素材を、変にSFと気負わず思春期や自我といった当たり前の問題として描けるまでに「進歩」したと捉えられるのかもしれません。
 

「水」ラメズ・ナム/中原尚哉訳(Water,Ramez Naam,2013)★★★☆☆
 ――費用を全額負担すれば、神経インプラントを広告フリー版にできる。それができるのはサイモンのような選ばれた者だけだ。ステファニーはサイモンに会って確かめた。攻撃に何の躊躇もいらない屑だ。やがて――サイモンが株を保有しているミネラルウォーターのシェアが一瞬にして……。

 ガジェットが今より未来のものというだけで、描かれている状況はすでに現実になっている――どころか現実もこの作品と同じく完全に広告に支配されてしまっています。今回の特集の三作ともに共通するのは、こうしたアクティビリティの高さでした。
 

「戦争3.01」キース・ブルック/鳴庭真人訳(War 3.01,Keith Brooke,2012)★★★★☆
 ――戦争がはじまったとき、ケヴィン・オファレルは街にいた。終わったときも街にいた。それほどにすみやかだった。ケヴィンがミースフィアにアプリを浮かべて拡張知覚情報を流していると、ポップアップのメッセージが現れた。『戦争が起きた。君たちは敗北した』とそこには書かれていた。

 タイトルは第三次世界大戦の謂。いわゆるネット・リテラシー情報リテラシーの問題が取り扱われています。朝日の捏造問題なんてのもありましたし、メディアがジャックされてしまったときにわたしたちに判断できる材料はあるのでしょうか。
 

「ジェームズ怒々山の帰ってきたSF集中講座」

サイバーパンク30周年」巽孝之

「洋画に見るサイバーパンク鷲巣義明

サイバーパンクとアニメの距離感」藤津亮太
 

「近代日本奇想小説史 大正・昭和篇(16)さまざまな翻訳・翻案 その3」横田順彌
 

「書評など」
◆今月気になったのはフォルカー・デース『ジュール・ヴェルヌ伝』くらいでした。
 

『怨讐星域』(最終話)「トーマス老の回顧」梶尾真治

『絞首台の黙示録(6)』神林長平

「SFのある文学誌(35)予告された未来――それぞれの明治二十三年2」長山靖生

「乱視読者の小説千一夜(42)迷宮のホテル」若島正

大森望の新SF観光局(42)」

PSYCHO-PASS LEGEND About a Girl(前篇)」吉上亮
 

 


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