『コードネーム・ヴェリティ』エリザベス・ウェイン/吉澤康子訳(創元推理文庫)★★☆☆☆

『コードネーム・ヴェリティ』エリザベス・ウェイン/吉澤康子訳(創元推理文庫

 『Code Name Verity』Elizabeth Wein,2012年。

 2年前、創元推理文庫創刊60周年記念で柚木麻子推薦だったので手に取っていたもの。

 第二次大戦中ナチに捕えられたイギリス人(スコットランド人)捕虜が、尋問に耐えかねて手記の形で情報を洩らす――というのが大筋です。ところがなぜかその手記は三人称の物語風に綴られます。こうした時点で明らかに信頼できない語りであるうえに、ところどころに傍線が引かれてあったりして、書き手の狙いが見えずにそれ自体が謎として吸引力がありました。

 語り手が捕えられた事情が冗談なのか事実なのかがわからず、尋問されている捕虜という状況なのにどこか穏やかで、特に書き手クイーニーと友人マディ二人の出会いや防空壕や怖い物リストや自転車旅行で描かれる友情には胸温まります。

 捕虜の手記だった第一部が終わると、マディの一人称による第二部が始まります。飛行機上でクイーニーと別れてからのマディ側の出来事が描かれていて、これはこれで第二次大戦中の兵士やレジスタンスたちの日常が描かれていて興味深いのですが、肝心の第一部の謎の真相となると拍子抜けもいいところでした。

 【※スパイだとばれると即刻処刑なので無線技士だと嘘をついて偽の暗号を出し渋っていました。手記には小説ふうの饒舌文体に紛れて収容所の様子や収容所の図面の在処を記していました。ドイツ側の秘書は同情して仲間になってたので、イギリス側に手記を送る際にその箇所に傍線を引いてくれていました。アメリカ人のインタビュアーはマディたちに頼まれて収容所内の情報を伝えてくれました。たまたま収容所のチボー軍曹はマディが身を寄せたレジスタンス一家の長兄でした。

 明らかに信頼できない語りがやっぱり信頼できなかっただけで、ミステリとしてトリッキーなことをやっているわけではなく、クイーニーの演技力と意志の強さと誇りの高さには頭が下がるものの、飽くまで騙す対象はドイツであって読者ではなかったようです。

 何の予備知識もなしに読めば第二部も楽しめたかもしれないのですが、「驚愕の真実」とか「最後まで読者を翻弄」とかを期待して読むと肩すかしを食らいます。

 尊厳ある死を選ぶというのも、それまでの彼女の生き方を見ていればありえるのかもしれませんが、ちょっと唐突な印象を拭えませんでした。

 マディの一人称よりもクイーニーによるマディ視点の物語に出てくるマディの方が魅力的だし、クイーニーの手記で描かれるクイーニー自身も魅力的なので、本来であれば動きのある第二部の方にむしろ停滞感を感じてしまいました。ミステリなんかにせず女二人の友情物語にしていればまた違ったのに、と思ってしまいます。

 結局マディとクイーニーの身分証が入れ替わっていたのは、偶然なのでしょうか?意図的だとすると誰のどういう意図だったのでしょう? クイーニーが捕まったきっかけ【※車に轢かれそうになったのは、左側通行のイギリスのつもりで車の往来を確かめていたからスパイに違いない、という理由】も、冗談でも何でもなくリアリティを重視する著者が、そういう何気ない失敗のエピソードとして採用したらしいのですが、クイーニーが完璧人間として描かれているだけに、お粗末すぎて最後まですっきりしませんでした。

 第二次世界大戦中、イギリス特殊作戦執行部員の女性がスパイとしてナチスの捕虜になった。彼女は親衛隊大尉に、尋問をやめる代わりに、イギリスに関する情報を手記にするよう強制される。その手記には、親友である女性飛行士マディの戦場での日々が、まるで小説のように綴られていた。彼女はなぜ手記を物語風に書いたのか? さまざまな謎が最後まで読者を翻弄する傑作ミステリ。(カバーあらすじ)

  


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