『悪魔とベン・フランクリン』シオドア・マシスン/永井淳訳(早川書房 ポケミス720)★☆☆☆☆

『悪魔とベン・フランクリン』シオドア・マシスン/永井淳訳(早川書房 ポケミス720)

 『The Devil and Ben Franklin』Theodore Mathieson,1961年。

 歴史上の人物が探偵役を務める短篇集『名探偵群像』の著者による、やはり歴史上の人物が探偵役を務める長篇作品で、本書の探偵役はタイトルにもある通りベンジャミン・フランクリンです。歴史に名を残すほどの偉人なら事件を推理するくらいの頭脳はあるだろうということのようです。著者はよほどその趣向が好きなのでしょう。しかし、ではその趣向が得意なのかというとそんなことはないようです。

 何よりもせっかくの歴史ものであるにもかかわらず、18世紀の風俗がまったくといっていいほど描写されておらず、そこらへんの田舎の話にしか見えません。町の人々が悪魔の存在を信じてしまい、フランクリンも魔女狩りに遭いかけるという場面こそあるものの、オカルトを信じる人々ならそれこそディクスン・カー作品にも登場しますし、何も過去の時代の専売特許ではありません。

 探偵役がフランクリンである必然性もなく、事件や推理法や手がかりがフランクリンの事跡にちなんでいるわけでもありません。要は有名人という記号です。

 この記号化は事件そのものにも及んでいて、悪魔の呪いをかけると恐れられる人物や悪魔を思わせる割れた蹄の跡は出てくるものの、著者にはそれで盛り上げようという気がないらしく、迷信VS理知の人という対立もなく、フランクリンがただただマイペースに捜査していくだけのつまらない内容でした。

 解決編にしてからが推理どころか推測によるただのリンチです。

 古いタイプというならともかく何から何まで古いだけの作品で、カーもクイーンもクリスティーも最晩年であるどころかチャンドラーが既に死去している時代に書かれた作品とは思えません。

 装幀上泉秀俊と書かれているけれど、抽象画だし勝呂忠の間違いでしょうか。

 アメリカ建国の偉人が挑む、奇怪な殺人事件

 時は1734年。フィラデルフィアで《ガセット》を発刊しているベン・フランクリンは、清廉実直の人として尊敬を集めていた。あるとき、ベンは社説で町の大金持ちマグナスの暴虐ぶりを非難した。記事に激怒したマグナスは、ベンの身に呪いをかけると脅してくる。彼は権力者であるばかりか、おそろしい魔力をもつと信じられていた。彼の怒りをかった者は、ことごとく不慮の災難に遭い、その現場には必ず悪魔の印である割れた蹄の形が残されていたのだ。人々の心配をよそに、マグナスの脅しを一笑に付したベンだが、数日後、使用人のトマスが行方不明になり、さらにその甥のジョサイアが無残にも殺害される。そして、死体が身に着けていたシャツには、不気味な蹄の形が! 政治家であり、避雷針の発明者として知られるフランクリンの名探偵ぶりを描く歴史ミステリ(裏表紙あらすじ)

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