『パララバ Parallel lovers』静月遠火(電撃文庫)★★★★☆

 死んだはずの人間からの電話。相手のいる世界では自分が殺されていて、自分のいる世界では相手が死んでいて、向こうの世界で自分を殺した犯人を二人で協力して探し出そうとする……という設定に惹かれて読みました。

 二つの世界をつなぐのは携帯電話だけ。それだけではなく、二人は生前も会ったことがなく、話をしたのは電話のみ。お互いが死んでいるのだから、これからも会うことはありません。コミュニケーションは電話のみ。だからこそ最後の一言に重みがあります。

 もともと電話以外に接点のない二人なので、喪失を共有する知人が周りにいません。だからお互いが死んだことも妙に現実離れして実感がともないづらいのですが、でも周りに知人の知人がいないからこそ、携帯だけでつながっている二人の関係が浮き彫りになっていたと思います。自分と一緒に悲しむ人がいたら、間接的に「恋人」を共有することになっちゃってたでしょうから。

 探偵役(?)が中途半端にエキセントリックで微妙に浮いていたのですが、ラメルさんがドライな性格じゃなかったとしたら、語り手と一緒に悲しみに沈んじゃってただろうから、仕方ないのかな。(極端に変人すぎると、それはそれでキャラ立ちすぎない地味目の登場人物たちから浮いてしまうし。)

 残された人やものや証言から、故人の姿が浮かび上がってくる、というタイプの話が好きなので、そういうのも期待したのですが、何しろ上記のようなわけなので、捜査の過程でお互いの新しい人物像が浮き彫りになってくる、ということはありませんでした。(携帯で本人としゃべっているわけだし)。

 見どころというか期待していたのはSF的趣向で、パラレル・ワールドが分岐した時間から動機を探ろうとしたり、暗証番号の解き方、襲われた語り手の反撃法や最後の救出劇など、パラレル・ワールドならではの趣向も随所に凝らされていました。

 遠野綾は高校二年生。平凡な日々を送る彼女の一番の幸せは、部活を通して知り合った他校の男子生徒、村瀬一哉と毎日電話で話すことだった。何度も電話をするうちに、互いを友人以上の存在として意識し始めた二人だったが、夏休みの終わりに一哉は事故死してしまう。本来であれば、二人の物語はそれで終わったはずだった。しかし一哉の通夜の晩、綾のもとに一本の電話がかかる。電話の主は死んだはずの一哉。そして戸惑う彼女にその声は告げた。死んだのはお前の方ではないのかと……。二人が行き着く真実とは!? 出会えぬ二人の運命は!? 携帯電話が繋ぐパラレル・ラブストーリー。切なさともどかしさが堪らない、第15回電撃小説大賞〈金賞〉受賞作。(カバー袖あらすじより)
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