怪奇小説が好きなわたしとしては、何よりも怪奇小説の翻訳家として南條氏を認識していたために、南條さんも岩波文庫から作品が出せるようになったんだねぇ――と、ご本人にとっては傍迷惑な感想をまず持ってしまったのだけれど、ともあれアーネスト・ダウスンです。
まさしく世紀末詩人というにふさわしい。高等遊民の妙に気位の高い感傷と倦怠と諦念があまりにステキです。この人はきっとゲロ吐いても気取ってんだろうなあ、なんて思ってしまうような雰囲気を漂わせています。
詩はやっぱり日本語だとピンと来ないのもありましたが、気に入ったのは冒頭の詩や「幸福の島」「毒酒アプサント」「訪れ」「夢の王女」などの“人生もの”のほか、「ブルターニュのイヴォンヌ」「交換」「愚かな質問をする御婦人に」あたりのクサクサの恋愛詩など。「月の叡智」はかっこいいです。日夏耿之介と鈴木訳ヴィヨンを合わせたような訳業に拍手。
ずっと詩を読んでからそのまま小説パートに進んだせいか、「エゴイストの回想」の冒頭は小説というよりも散文詩に近い印象を受けました。惨めだった子どものころ出会った少女に対する(身勝手な)思い出話。もちろん少女の方だってどちらが得になるか考えたうえで二つ返事で承諾したのかもしれない。だからと言って事情がかわるわけでもなし、“少女を捨てた自分勝手な自分”に酔っているからこその「エゴイスト」の回想なのだ。こういうのって普通に書けば嫌みったらしくなっちゃうと思うんですけど、なんでかしんみりさせてしまうのが不思議な魅力。
「遺愛のヴァイオリン」も似たような話で、それが当事者の回想ではなく第三者の一人称になっています。この語り手がまた最後にどうでもいいような自意識で悩むのが昔風で味がある。読者としてはヴァイオリン奏者とオペラ歌手の思いにこそ興味の主眼があるのだけれど、語り手はそんな読者そっちのけで自分の心配してるんだもの(^^;。
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