『世界文学ワンダーランド』牧眞司(本の雑誌社)★★★★★

 タイトル通りの海外文学紹介本なのだけれど、気をつけなければならないのは、著者は〈文学〉という言葉を〈純文学〉とか〈主流文学〉みたいな古き良き意味で使っています。まあガイド本として読む分には問題ないんだけれど、お文学主義者らにチクリとやっている箇所なんかで、〈文学〉をそういう意味で迷いなく使われてると、ちょっと戸惑う。

 とはいえそこは最高の〈文学〉が75作。基準はとにかく面白いもの。ボリューム以上のボリューム感がありました。絶版とか非文庫が多いのが悲しいけどね。。。

 通読してみて思ったのは、けっこう知らずにいたシリーズものが多いのだなということでした(世代が違うというのもあるけど)。ボルヘスの短篇でお馴染み〈バベルの図書館〉や最近までだらだらと続いていた〈文学の冒険〉などはともかく、文庫化もされず当然元版も残っておらず知らぬ間に消えてしまった叢書の多いこと。その叢書でしか出ていない作家などは、こういう本がなければわたしは知ることすら出来なかったかも。

 わたしが知らないだけで決してマイナーではないんだろうけどさ。むしろメジャーの目白押し。ガルシア=マルケスラブレーボルヘスカルヴィーノ、百輭などなど、笑っちゃうほど贅沢です。

 未読の作家・作品で面白そうだったのは、「語り部」という紹介が魅力的なイサベル・アジャンテ『精霊たちの家』、「ホフマンやポオの伝統につらなる」グスタフ・マイリンク『ゴーレム』、「実在が確認されるまえに、象徴として同定された山」という発想が魅力的なルネ・ドーマル『類推の山』、「ワイルドでクレージー」なジム・ダッジ『ゴーストと旅すれば』、「不思議な世界へ読者をすうっと引きこんで」ゆくサタジット・レイ『ユニコーンを探して』、「ブラッドベリカポーティよりもグロテスクで苦い青春小説」アンジェラ・カーター『魔法の玩具店』、言葉が「激しいエロティシズムの世界律に従っている」ジョイス・マンスール『充ち足りた死者たち』、「魔女の媚薬のように、母から娘へ伝えられた」ヴァニラの来歴を語るジョルジュ・ランブール『ヴァニラの木』、「妖精写真をめぐる奇妙な冒険」スティーヴ・シラジー『妖精写真』、「大いなる宇宙の秩序を追いもとめるケプラー」の卑しき地上の日々ジョン・バンヴィルケプラーの憂鬱』(『バーチウッド』の作者かあ)、あたりかな。ケプラーによる「正多面体は前述の五種類にかぎられているので太陽系には惑星は六つしか存在しないのだという、明快で整然とした論理」がすばらしすぎる。
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