「砂男」E.T.A. ホフマン/種村季弘訳(『ちくま文学の森6 思いがけない話』より)★★★★★

 「Der Sandmann」E.T.A. Hoffmann,1815年。

 子どものころの理由のない恐怖、砂男の民間伝承、マッド・サイエンティストか黒魔術師かはたまた悪魔かという風情のコッペリウス、一家を襲う恐怖小説じみた悲劇……まさに怪奇小説という趣で始まる本篇なのだけれど、途中から――手紙の引用が終わり語り手が登場するあたりから――趣が変わってきます。ナサナエルは死人めいた無機質な美少女に惚れ、コッペリウスを彷彿とさせる晴雨計売りコッポラはナサナエルに眼鏡や望遠鏡を売りつけます。怪奇小説から一転、やにわにからくりめいてきました。理由のない恐怖を初めは怪奇小説的に、次いで機械的に、そして精神医学的に解釈しようとして果たせず、壊れてしまった人の物語とでもいえばいいのか、静かな怪談に始まりシュールなコントを通過してグロテスクな悲劇にたどり着いた不思議なトーンの作品でした。

 さあ、子供たち、お寝みの時間よ! 砂男が来ますよ。すると本当に、重たい足音が聞こえるのだ。それが砂男なのに相違なかった。砂男って、どんな人なの? どんな姿をしているの? ある夜、父の押し黙っている様子から、砂男のやってくる日だと察しがついた。そこで、父の部屋の扉近くの物陰にそっと身を隠した。物音がする。こわごわ外を覗きこむ。――砂男とは、何のことはないときたま昼食を摂りにくる老弁護士のコッペリウスではないか!――
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  『諸国物語』より
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