『ぐるりのこと』梨木香歩(新潮文庫)★★★☆☆

 梨木香歩のエッセイ集。といっても面白おかしい戯文的〈エッセイ〉ではなくて、きりりとした佇まいの文章。(日本語における「ポエム」と「詩」の違いみたいなニュアンスで)。

 小説からも感じられる通り、やはりこの人は住んでいる世界が違うと感じました。独特の視点とか書き出す角度とかだけじゃなくて、考え方やルールの違う世界の住人みたい。

 例えば敷地の境界線をわざとはみ出して畑を作る隣人との何だかマイペースな駆引きあれこれ、くらいであれば他のエッセイストさんでも書けると思う。ところが梨木さんは、同じ感じのマイペースな文章のまんまで、時事ネタ歴史ネタ思想ネタ人生ネタまで切り込んでしまう。

 すごい、と思う。普通だったら、真面目な話をしたり思いを伝えたり難しいことを考えたりすると力んだり凄んだりイデオロギーを振りかざしたりしがちなところを、梨木さんは世間話の延長みたいに飾らず記す。だから切れ味は鋭いんだけれど、押しつけがましくはない。現実のことなのに、ファンタジーみたいな軽みがある。不思議な魔法を見ているような文章でした。

 旅先で、風切羽の折れたカラスと目が合って、「生き延びる」ということを考える。沼地や湿原に心惹かれ、その周囲の命に思いが広がる。英国のセブンシスターズの断崖で風に吹かれながら思うこと、トルコの旅の途上、ヘジャーブをかぶった女性とのひとときの交流。旅先で、日常で、生きていく日々のなかで胸に去来する強い感情。「物語を語りたい」――創作へと向う思いを綴るエッセイ。(裏表紙あらすじより)
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