『別役実1 壊れた風景/象』別役実(ハヤカワ演劇文庫10)★★★★☆

「壊れた風景」★★★☆☆
 ――食べ物からパラソルに蓄音器まで用意された素敵なピクニックの場に通りがかった他人同士。不在の主に遠慮していたはずだ、ついひとつまみから大宴会へ。無責任な集団心理を衝いて笑いを誘う快作「壊れた風景」。(裏表紙あらすじより)

 自分の言動に責任を持ちたくない人たちの、無意味な言葉のなすりつけあい。自分がレコードを止めたいのに、止めませんかと他人に言わせようとするセコセコの応酬。その一つのパターンの繰り返しだから、笑い的にも諷刺的にもちょっと弱い。とはいえ、「空気読めない」だとか「携帯メールのやりとりでなぜか自分が言ったことになっている」みたいな時代には、改めてタイムリーなのかも。
 

「象」★★★★☆
 ――背中に残る被爆痕を人目に晒すことでしか自己の存在を確認できない男と、それを嫌悪する男。深い孤独と不安に耐え、静かな生活を守りぬこうとする人間の姿を鮮烈に描き、演劇界に衝撃を与えた初期代表作「象」。(裏表紙あらすじより)

 見世物を見ることに不道徳を感じてしまうというのは、何なのだろう。見せられて引く方は、「壊れた風景」の登場人物たちと同じく、自分はそんなものに喜ぶ人間じゃない、と責任転嫁したいだけなのかもしれないな。それが本人にとってはアイデンティティを否定されることなのに。
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