『坂手洋二2 海の沸点/沖縄ミルクプラントの最后/ピカドン・キジムナー』坂手洋二(ハヤカワ演劇文庫17)

「海の沸点」★★★★☆
 ――男は国体で日の丸を燃やし抗議した。戦争中の悲惨な集団自決はなぜ起きたのか、なぜ自分の土地を米軍施設が占拠するのか……。(カバー裏あらすじより)

 沖縄の人間が読んだらまた違った印象を受けるのかもしれないけれど、標準語圏の人間からすると沖縄方言にはどうしてものんびりとした印象を受けてしまうため、悲しい台詞を明るく発するような、シリアスな問題をあえておおらかに演じたような効果がありました。

 米軍占拠に反対することが日の丸を燃やすことにつながったり、右翼の考え方が米軍にいてもらおうという発想だったりと、現実は明らかに何かがおかしくて歪んでしまっている。

 思想的にはさておき。

 この戯曲を読んで感じたのは、まったく「戯曲」のような感じがせず、まるで小説を読んでいるようにすらすらと読めたことでした。ふつう戯曲って、ト書きがあって、ト書きに書かれた状況で初めて生きてくる台詞があって……台詞だけ読んでも唐突だったりピンと来なかったりするものなのですが。

 だから戯曲って読むのに時間がかかるし頭が疲れるし、作品によっては観たら面白いのに読んだらつまらないものもあったりするんだけど。

 これは舞台も見てみたい。舞台で見てもなめらかなのか、あるいは舞台だと説明的な台詞をやけに連発しているように見えちゃうのか。

 戯曲にしても小説にしても理想的なのは、説明せずに台詞なり何なりのやり取りのうちに自然に背景が明らかになってくることだと思うのですが、その点この作品は理想的なのかな。シリアスな内容なのにほとんど世間話だけで成り立っているようにも感じてしまいます。
 

「沖縄ミルクプラントの最后」★★★★☆
 ――米軍撤退を望む一方、人々は働き口を失うことを恐れ、矛盾に苦悩する……。

 現実を前にして、おあつらえ向きと言っては失礼ですが、粉乳工場というのが計ったようないいモチーフでした。そりゃ当たり前に考えたら、高いお金払って粉乳飲むより、安い牛乳調達するでしょう。つまり完全に、「賃金のための賃金」なんですよね。需要のある業種ならまだしも、まるで矛盾を絵に描いたような存在ではありませんか。でも粉乳造りには粉乳造りのプライドもあるからややこしい。しかも予算がアメリカから出てるというのがいっそうねじくれてます。ま、日本が「思いやり予算」を出しているのだって意味不明ではあるんですが。単なるサラリーマンの悲哀みたいな内容でありながら、沖縄そのものが矛盾しているのが伝わってきます。

ピカドン・キジムナー」
 ――広島で被爆し沖縄へ帰郷した被爆者の悲哀と、日本復帰時代の沖縄の家族を描く。
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