『アバンチュリエ』(1)森田崇(講談社イブニングKC)★★★★★

 失礼ながらミステリの漫画化というと、売れない漫画家の雇用対策というイメージがあったのですが、実力のある人が本気で取り組んでくれました。

 何よりもルパンがかっこいい! さわやか好青年だったりかっこよかったりキザだったり、ルパンを知らない人がオリジナル漫画だと思って読んでもおかしくないと思います。

 サブタイトルに「新訳」とはあるものの、大きく原作から逸脱することはありません。それでも細かいところをちょっと工夫するだけでこんなにも面白くなるのかと感動しました。

 たとえば「アルセーヌ・ルパンの脱獄(後編)」には、「――そう…カオルン男爵の時と同じですよ!」とルパンが放つ一言があります。原作を確認してみるとルパンが長々と話す台詞の一部に同じような一言がありましたが、周りの台詞に埋もれてしまって印象に残りません。ところがこの台詞だけを切り取ってタメを作ったことで、このたった一言で本篇のトリックがものすごく活きてくるんです。ガニマールならずとも「……アッ…」と言いたくなるような。この部分は原作を越えていると思いました。

 「獄中のアルセーヌ・ルパン」のあるトリックも、漫画でどうやって表現するのかと不思議に思っていましたが、なるほど、帽子を取ったら……という形でクリアできるんですね。

 ガニマールがおっさんで且つかっこいい。一方でヴィクトワールはかなり若いです。でもおばさんで且つきれいなヴィクトワールも見てみたかったです。ほかにまだ役どころの不明なオリジナルキャラも登場(本篇はその人に語る回想という形であるようです)。

 短篇だけではなく長篇も描かれる予定なのでしょうか。そうするとやっぱり、これだけルパンをかっこよく描かれると、『カリオストロ伯爵夫人』あたりの若いルパンが見たいですね。あるいは代表作とされる『奇巌城』『八点鐘』が個人的にまったく面白くないので、著者によって面白く生まれ変わったこの二作が読みたくもあります。理想はシリーズ全作漫画化ですが。

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