『ノートル=ダム・ド・パリ』(上・下)ユゴー/辻昶・松下和則訳(岩波文庫)★★★★☆

 『Notre-Dame de Paris』Victor Hugo,1831年

 物語は猥雑な劇場の場面から幕を開けます。いったい何が始まるんだと思っていたところに、劇にうんざりしだした観客たちが、一番面白いしかめっつらをした者を「らんちき法王」に選出しようと羽目をはずし、みごと優勝したのは、片目でらんぐい歯で背中にこぶのある鐘男カジモド。主役の一人を見る間に読者の前に飛び出させ、特徴ある外見の描写もストーリーの流れに沿っている、見事な初登場シーンです。

 続いて、またも印象的な初登場を見せるのが、ヒロインのエスメラルダ。戯曲作家のグランゴワールが初めてジプシー娘を目にする場面の、めくるめくような舞踏シーンは、文章を読んでいるだけでもうっとりしてしまいます。

 やがて宿なしたちに吊るされそうになったグランゴワールを救うために、やむなくその人と結婚すると宣言したエスメラルダです。

 それからしばらくは、『レ・ミゼラブル』と同様に、町の歴史やカジモドの生い立ちなどが詳細に語られ、メインストーリーはほとんどおあずけで下巻に続くことになります。

 そして下巻は怒濤の大ロマン、意外とカジモドの出番は少ないんですね。
 

   


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