『王妃の首飾り(下)』アレクサンドル・デュマ/大久保和郎訳(創元推理文庫)★★★★★

 いよいよ首飾り事件も核心に迫ってきました。ボージールたちによる計画でワンクッション置かれているのが、相変わらず上手いです。いかにもフィクションめいたはったりの楽しいコンゲームに気を取られていると、すとんと史実に接合されたのでびっくりしました。そういえばラ・モット夫人は実在の人物だったのをすっかり忘れていました。

 さあどうなるのか――と思ったところで今度は王妃を巡る三角関係の恋模様に話は変わります。上巻終盤でもようやく人間的なところを見せていたアンドレですが、本書でも同じようなところが見られます。ニコルやロレンツァやデュ・バリー、あるいはマリ=アントワネットやジャンヌ・ラ・モットと比べるとあまり目立たない、損な役回りでしたからねえ。

 物語の途中でシャルニーへの思いを秘めたまま、シャルニー&フィリップ&王妃の三角関係(?)にも絡むことなく、なかばぷっつんして姿を消してしまいますが、アンドレが引っ込んだからこそ、ジャンヌが王妃に取り入ることができたとも思えますし。しかもこのことが物語的にも歴史的にも重要な意味を持って来るにいたっては、デュマ(マケ?)の構成力の見事さに舌を巻きます。

 実在の人物たちは当然史実(とされていること?)に近い役割を担わされているのですが、そこに割り込むカリオストロの絡み方も実に見事です。なるほどそこでロアンにそうきますか。ほんと悪魔みたいな奴ですね。表向きはラ・モット夫人の策略に見せかけておいて、夫人がそうしてしまうような展開に持っていかせる黒幕ぶりにほれぼれしました。

 「主狼職」というのが何だかわからなかったので調べてみると、原文は「louveterie」。「狼狩り隊、狩狼隊」の意でした。「主鷹司」や「主計寮」のような、「狼を司る職」という意味の造語なのでしょう。訳者のセンスなのか、昔の定訳だったのかはわかりませんが、いずれにしても名訳だと思います。

 ボージールが起こした大使館事件のせいで警察に追われたニコール(オリヴァ)は、カリオストロによって匿われる。一方宮廷では、決闘で受けた傷により倒れたシャルニーが、うわごとで王妃への愛を口にしていた。とんでもない醜聞に王妃が青ざめる一方、シャルニーへの愛が断たれたことに愕然としたアンドレは、宮廷を去り修道院に身を寄せる。王妃の寵を得たいロアン枢機卿は、ラ・モット夫人に入れ知恵をされ、王妃が一度は諦めた首飾りを代わりに購入してプレゼントしようとしていたが……そこに現れたカリオストロ伯爵が、思いもかけない言葉を口にした。ひょんなことから舞い込んできた首飾り――ラ・モット夫人は匿われていたニコールが王妃そっくりなことに驚いて、ある計画を立てるのだが……。
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