『帽子から飛び出した死』クレイトン・ロースン/中村能三訳(ポケミス287)★★★☆☆

 『Death from a Top Hat』Clayton Rawson,1938年。

 クレイトン・ロースンの第一作。

 広告代理店で働くロス・ハートがアパートの部屋で仕事をしていると、「この部屋には死人がいる!」という声が聞こえた。あわてて廊下に出ると、サバット博士の部屋の前で、数人の男女が話し合っていた。異常を感じ取った一堂は、扉を破って部屋に入った。部屋には蝋燭の煙が立ちこめ、床にはチョークで五芳星が描かれており、その真ん中にサバット博士が倒れていた。扉には鍵が掛かけられ、鍵穴にはハンカチが詰められ、閂が掛けられており、扉の前はソファで塞がれ、窓は閉まっていた。そしてサバット博士は絞殺されていたというのに、部屋には人っ子一人いなかった。まさか悪魔の仕業でもあるまいに……。廊下にいた男女が揃いも揃って奇術関係者だとわかると、ガヴィガン警部とロス・ハートは、奇術師のマーリニをアドバイザーとして呼んだ方がいいと判断した。タクシーから消失する容疑者、変装した死体、足跡のない雪の密室……事件は混迷を深めていった。

 怪しく見える人間は犯人じゃない――というのはミステリだけのお約束なのですが、容疑者全員が誤誘導の得意な奇術師であるため、そんなお約束がかろうじて説得力を持ち得ています。

 そうはいってもさすがに第一の密室は理屈のための理屈の気味が強く、納得しやすいのは第二の密室の方でしょうか。もちろん一つ一つ単独ではトリックが成立しないのですが。

 第二の密室の捨てネタをひっくり返すと第一の密室の真相の手がかりになるというのも面白いですし、そもそもの初めっから大胆な「改め」のようなものがおこなわれていたというのも嘘くさいけど面白い。

 でも切れ味はありません。ロースンはやっぱり短篇作家だと思います。
 ----------------

 帽子から飛び出した死 『帽子から飛び出した死』
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ