『11枚のとらんぷ』泡坂妻夫(角川文庫)★★★☆☆

 泡坂氏の長篇は、奇想に溢れる短篇と比べると、手堅いという印象を持ちます。本書にしてもそれは例外ではありませんでした。

 公民館でのアマチュア奇術ショウで披露される十一の奇術に加えて、作中人物の著述『11枚のとらんぷ』に書かれた十一の奇術、という大盤振る舞いは、確かにトリッキーなものを求める好奇心を満足させてくれます。作中作『11枚のとらんぷ』になぞらえられた(連続)殺人事件、しかも関係者には完璧なアリバイがある、という趣向には、謎解きミステリを愛する心をくすぐられます。

 けれど犯人特定の手順は手堅く古典的なもので、普通のミステリであれば◎でも泡坂印だと思うと物足りなさを感じてしまったのは否めません。

 作中作のなかでは、『しあわせの書』のような凝った小道具の登場する第十話「レコードの中の予言者」、逆転の発想が光る第六話「砂と磁石」、錯覚と見せ方にうまく鳥を絡めた第四話「九官鳥の透視術」等を面白く感じました。第一話「新会員のために」と第七話「バラのタンゴ」は、『KAWADE夢ムック 泡坂妻夫 からくりを愛した男』に、奇術誌に発表された原型短篇「ハートの2」と「クラブの4」が掲載されていました。

 真敷市立公民館で開かれた奇術ショウ。〈袋の中の美女〉という演目の直前、袋から出てくるはずの水田志摩子が、姿を消した。「私の人生でも最も大切なドラマが起こりかかっている」という言葉を遺して――。同時刻、自室で発見された彼女の屍体、その周囲には不可解な品物の数数が。同じ奇術クラブに属する鹿川は、これは自分が書いた小説「11枚のとらんぷ」に対応していると、警察に力説した――。奇術トリックの最高傑作!(カバーあらすじ)
 

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