『カインド・ハート』(Kind Hearts and Coronets,1949)★★★★☆

 アレック・ギネスが被害者を一人八役で演じたスリラー・コメディ。とはいっても演技がうますぎて一人八役にはむしろ笑いどころは少ない。アスコイン卿やヘンリー・ダスコイン牧師みたいに出番の多いキャラは特に。楽しいのは「殺されるためだけ」に出て来た一族たちで、ほとんど自爆してくれた提督や、本人のキャラも殺され方もやりたい放題のアガサ夫人などはインパクト絶大です。

 はじめのうちは事故に見せかけていたはずなのに、最後の何人かは明らかに殺人の痕跡が残っていそうで、なのにあくまで語りは真面目なまんまなのがおバカです。

 殺人よりも二人の女を巡る恋の行方にサスペンスを感じました。わがままで自分勝手であばずれのシベラに、生真面目で貞節な貴族イディス。特に裁判以降の女の戦いがめちゃくちゃ面白い。うっわあー。そんな展開になるとは思いも寄りませんでした。どう結末をつけるつもりなんだ?とやきもきしていたら、なあるほど。その問題にも結末をつけつつ、ミステリ的にも結末をつけている見事な終わり方でした。

 そのミステリ的な話ですが、回想形式自体をトリックに使ったオチが冴えています。全編を覆う皮肉なトーンにも合っているし。

 タイトルは作中でも引用されているテニスンの詩より。「優しい心は王冠にまさる」。

 死刑囚のルイ=チャルフォント公爵は、刑の執行を明日に迎えて、獄中で回想録を綴っていた――。音楽家と駆け落ちしたために公爵家から勘当された母は、失意のうちに生を終えた。幼なじみのシベラも、今や貧乏なルイではなくライオネルを選んだ。その瞬間、ルイ・マッツィーニのなかで、公爵一族を皆殺しにして自分が爵位につこうという復讐心が決定づけられたのである。一人、また一人と殺して公爵に近づいてゆくルイ。出世街道をのぼるルイに対して、シベラも手のひらを返したような態度を取り、二人は夫に隠れて逢い引きを続ける。一方でルイは自分が殺した男の美しい未亡人にも心を奪われていた。やがて復讐が成功したかと思われたある日、ルイのもとに警察が現れ……。
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