「My Favorite SF(第44回)」佐藤哲也
『銀河ヒッチハイク・ガイド』
「鏡」チャイナ・ミエヴィル/田中一江訳(The Tain,China Miéville,2002)★★★★★
――イマーゴによって廃墟と化したロンドンで、男は独り北へと歩く……ローカス賞受賞作(袖惹句より)
重みをもっているかのような容赦ない日ざし、寝そべる男、何も映らない水たまり、爆破されて水しぶきのような形状で固まった線路と鉄橋……冒頭からかっこいいです。鏡に封印された別種族《イマーゴ》たちが人類に対して叛乱を起こし、人類は必死に防戦を試みている――。なんだか邪神みたいなおどろおどろしそうな設定ですがそうではなく、『アイ・アム・レジェンド』とか『宇宙戦争』(は違うか?)のようなSFサバイバルです。手のような形をした「ハト」、蝶のような唇型のバケモノの群れ、蜘蛛の巣のかたまりみたいな髪の毛状のイマーゴ……といった怪物たちが悪夢のように蠢いています。ある種のイマーゴたちは、鏡に映らないので「ヴァンパイア」と呼ばれている――そういうゾンビ/吸血鬼ものっぽいくすぐりもよかったです。語り手「おれ」の運命や小説の終わり方も、ちょっと予想もつかない形でびっくりしました。
「ある医学百科事典の一項目」チャイナ・ミエヴィル/市田泉訳(Entry Taken from a Medical Encyclopedia,China Miéville,2003)★★★★★
――十八世紀後半からロンドンで断続的に発見された謎の症例――その実態の驚くべき報告(袖惹句より)
架空の百科事典ものです。そもそもが架空の病気のガイド本という設定のアンソロジー『The Thachery T. Lambshead Pocket Guide to Eccentric & Discredited Diseases』に書き下ろされたものだそうです。遊び心を通り越して、なんてマニアックな……。百科事典なので、ぜひ横組みで翻訳してもらいたかったところです。
「インタビュウ ファンタジイを引っかき回す」(Messing with Fantasy,China Miéville,2002)
邦訳された『ペルディード・ストリート・ステーション』について、九・一一について、ファンタジイについて。「慰め」や「感傷のポルノ」という言い方から、どんなものを毛嫌いしているのかがわかりますね。
「ジャック」(Jack,China Miéville,2005)★★★★☆
――おれが知っている“お祈りジャック”の話をしよう――《バス=ラグ》世界を描いた一篇(袖惹句より)
『ペルディード』のアナザー・ストーリー。犯罪者が懲罰として人体改造手術を受けさせられるというディストピアが舞台のようです。三篇を通していえることなんですけれど、本篇に出てくる改造人間にしても、何というか、悪趣味の趣味がいい人だと思いました。
「SFまで100000光年 71 あの「あの」アレ」水玉螢之丞
「あの楽器」の話です。
「SF Magazine Gallery II(2)」齋藤浩「文字型メカシリーズ・海型空母」
陸・海とくればとうぜん次は……?
「トランスフォーマー リベンジ 誌上公開」
スピルバーグとマイケル・ベイ各インタビュー。
「SF BOOK SCOPE」林哲矢・千街晶之・牧眞司・長山靖生・他
◆願望充足→人造人間ってことでしょうか? 『ビスケット・フランケンシュタイン』日日日は、要するに願望充足小説なのかな。ラノベからはもうひとつ、『サクラダリセット』河野裕。こちらは超能力もの。咲良田という超能力者の町、だけど管理されているため町から出ると能力は使えない、という設定は面白そう。でも「世界を三日分リセットする能力」って、とんでもない能力が前提の話なんですね。。。かなり練られていてとても面白いか、何も考えてなくてつまらないかのどちらかじゃないかと直感。
◆村上春樹『1Q84』は別格なので置いておくとして。モーリス・G・ダンテック『バビロン・ベイビーズ』はフランスSFというので気になりましたが、映画『バビロンA.D.』の原作だそうです。
◆ホラーからは小山内薫『お岩』。これは既に読み終えましたが、ほんと後半は残酷描写がじとじとと続く、厭な作品です。
◆牧眞司氏の紹介はミロラド・パヴィッチ『帝都最後の恋』。
「地球移動作戦 第14回」山本弘
「疲弊「水惑星」に漏水汚染警報」椎名誠《復活!椎名誠のニュートラル・コーナー15》
「天国と地獄の狭間 第6話 エクトプラズム」小林泰三
「怨讐星域(11)アジソンもどき」梶尾真治/加藤龍男イラスト ――降誕祭で上演される演劇をめぐって、タツローたちの奮闘が始まった!(袖惹句より)
ずいぶんと久しぶり。上演する劇の脚本を、もっと政治的に優等生な感じに変えろと命じられた……んだったかな。の続き。
「おまかせ!レスキュー Vol.134」横山えいじ
「《銀河乞食軍団》の魅力」堺三保
「(They Call Me)TREKDADDY(Log.28)」丸屋九兵衛
「SF挿絵画家の系譜(41)中村宏」日下弘
創元推理文庫でおなじみ。
「サイバーカルチャートレンド(2) 衛星測位システムと変調技術で変わる社会」大野典宏
「サはサイエンスのサ 172(まったくあたらしい粒子が見つかった2)」鹿野司
「センス・オブ・リアリティ」
◆「味のIT革命やー!」金子隆一/「広汎性発達障害は本当に障害か」香山リカ
「READER'S STORY」三枝蝋「説得」
「SFセミナー2009」レポート
小川隆ほかハリポタ談義とか、円城塔とか。
「MAGAZINE REVIEW」〈インターゾーン〉誌《2009.1/2〜2009.3/4》東茅子
220号に掲載のEugie Foster(ユージイ・フォスター)「Sinner, Baker, Fabulist, Priest; Red Mask, Black Mask, Gentleman, Beast」(罪人、麺麭職人、偽善者、司祭:赤い仮面、黒い仮面、紳士と野獣)が面白そう。というかタイトルだけで読みたくなります。内容は「毎朝、さまざまな仮面を顔につけて、その役割を演じなければならない世界。あるときは殺人事件の関係者、またあるときは為政者たる女王の従者に」とのこと。やはり読みたい。
「《霊峰の門》第19話 乱風楓葉 七」谷甲州
「アンブロークン・アロー(最終話)『戦闘妖精・雪風 第三部』」神林長平
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