『Der Goldene Topf/Das Fräulein von Scuderi』E. T. A. Hoffmann。
幻想小説一篇に探偵小説一篇に音楽小説二篇という組み合わせ。
「黄金の壺」(Der Goldene Topf,1814)★★★★★
――美しい金緑色の蛇に恋した大学生アンゼルムスは非現実の世界に足を踏み入れていくが……。
ぱっと連想したのはなぜか「パンの大神」や『エデンの黒い牙』でした。ファンタジーというよりカルト的な異世界、押入の扉ではなく脳の隅っこの扉を開けて覗くような気持ち悪さがつきまといます。登場人物の大半が、魔女に取り憑かれたみたいな会話をしはじめるのだから脳髄がぞわぞわしてたまりません。みどりの蛇やノッカーの魔女や壜詰めの牢獄といったお伽噺のガジェットが、お伽の世界ではなく大人社会で使われた途端に、こんなにもおぞましくなるとは。副学長たちに向かって「それはですね、事務官どの、文書管理官リントホルスト氏はそもそも火の精だからですよ」だなんて真顔で言って、「えっ――なんだって?」という当然の反応をもらうのには、笑えるようだけどやっぱり怖いです。
「マドモワゼル・ド・スキュデリ」(Das Fräulein von Scuderi)★★★☆☆
――17世紀のパリ。天才的な職人が手がけた宝石を所有する貴族たちがつぎつぎと襲われる。ようやく逮捕された犯人は意外な人物だった!
別にスキュデリが名探偵ぶりを発揮するような話ではありませんでした。最初の方で当時の毒殺&裁判の様子が説明されていて、その残酷ぶりと徹底ぶりが印象に残ります。あまり幻想味はありませんが、犯人の現れ方や消え方が即物的・機械的でホフマンらしさを感じました。
「ドン・ファン」(Don Juan)★★★★★
――ようやく幕があがった。このドイツの町でイタリア語で、あの偉大なマエストロが心に感じ、考えたままに、聴けるのだ! そこにドン・ファンがとびだしてきた。そのあとにドンナ・アンナがついてくる。
舞台『ドン・ファン』の様子を報告する語り手が体験するある出来事。舞台を紹介する散文の文章でこんなにも生き生きと面白そうな文章には初めて出会いました。だからこそオチも生きてこようというものです。
「クライスレリアーナ(小品を抜粋)」(Kreisleriana)★★★☆☆
小説というよりエッセイといった様子の音楽談話。
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