『スペース』加納朋子(創元推理文庫)★★★★★

 玉石混淆な『ななつのこ』、連作短篇としての完成度に縛られてしまった『魔法飛行』――に続いてのシリーズ第三作は、シリーズ三作目以降だからこそ書けた大胆な仕掛けと構成の作品でした。それだけに初めて読む人にはお薦めできないけれど、シリーズ三作のうちでは一番の傑作です。

 謎解きの謎にばかり気を取られていると、「それはなぜ書かれたのか/為されたのか」というもう一つの謎に足をすくわれてしまいました。一つの事物に二つの意味を持たせて、しかもどちらも違和感なく「日常の謎」に潜ませていて、しかも大胆! すごい作家になりました。

 モグラの話や銀河鉄道の夜とネタバレおばさんの話など、ちょろっとした謎解き小咄もあります。

 「スペース」「バック・スペース」の二部構成。

 「バック・スペース」では、駒子ではない人物の目を通して、「もう一つの物語」が描かれています。『ミステリーズ!』に連載されたわりにはミステリ度は限りなく低いのですが、「スペース」を補完する意味でも、シリーズ全体を補完する意味でも、なくてはならない作品です。

 「一目会ったその日から、なんてお話だけの嘘っぱちだと思っていた。恋なんて、ドラマに出てくるみたいな美男美女だけのものだと思っていた。私とは無関係なところで、無関係な人たちがするものだと思っていた。」

 こんな言葉をこの時代にこんな肯定的な意味で使えるなんて、ちょっとかっこいい。

 ご存じだろうか。〈魔が差す〉という瞬間は、たぶんどんな人にも一度や二度は訪れるものなのだ。そう、犯罪行為などとは地球とアンドロメダ星雲くらいにかけ離れている駒子にさえ、その瞬間は突然やってきたのだから。クリスマスにひいた風が軽快し、空はすこんと晴れ上がった大晦日、出かけたデパートであるものに目を奪われたばかりに、息が止まりそうな思いをした駒子は……。(カバー裏あらすじより)
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