『プリズム少女~四季には絵を描いて~』八重野統摩(メディアワークス文庫)★★☆☆☆

『プリズム少女~四季には絵を描いて~』八重野統摩(メディアワークス文庫

 2013年、文庫書き下ろし。

 『還りの会で言ってやる』『ペンギンは空を見上げる』の著者の第二作。

 地味な男子が美少女二人と恋人未満の友だち関係という、少年漫画のラブコメみたいな設定です。目標も意味も見いだせずに醒め切って流されて生きている今どきの高校生です。醒めた人間の恋愛未満なので、何も起こらないし、何を思っても空々しいです。

 四つの章から成っています。町に戻ってきた小学校の同級生・千代川の「脳は数学が好きだけど、身体は数学が嫌い」という謎めいた言葉の意味が明らかになるのが第一章。ここで千代川がクールでエキセントリックで不必要なコミュニケーションを拒絶するような人間に描かれているのが、本書全体を通してのキーでした。

 第二章では野球部である主人公・真崎の引退試合がおこなわれます。千代川が試合中にキャッチャーの癖を見破ったと噓の電話をした理由と、ピッチャーがフォークを投げるのを予言した根拠が明らかにされます。

 本を交換するという万引きをおこなった少女の謎を解き明かすのが第三章です。真崎たちには謎が解けたからと言ってどうすることもできません。受験に対する親と子の思いのすれ違いという、リアルで、しかも主人公たちに身近である点で、日常の謎として優れた謎だと思います。真崎が幼なじみ・玉置から気持を(ほぼ)打ち明けられ展示会でデートする回でもあります。玉置が外見から誤解されやすいというエピソードは、最終章の千代川へと引き継がれてゆくことになります。

 最終章で千代川の事情が明らかになります。千代川が好きな「グリーングリーン」に込められた意味から、真崎は千代川の父親との関係性を見抜きます。誰もが知っていながら誰も七番までは知らない「グリーングリーン」というのは謎解きのアイテムとして意外性があって秀逸でした。

 最終章最大の見せ場は第三章の展示会に展示されていた絵画の絵解きなのでしょうが、あまりに都合がよすぎました。「再会」だとおためごかしで「最愛」だと本心だというのがわかりません。どっちもおためごかしの自己満足でしかないでしょう。千代川が自分が非人間的だと思われているのをツッコむ場面は再三描かれていましたが、それが単なるツッコミではなく心からの絶唱だったというのは、会話の妙で進めてゆくラノベという形式を逆手に取った大胆な伏線だと思いました(というのは大げさでしょうか)。第三章の万引きエピソードも、親と子の思いという形で繋がりました。

 丁寧に作られているけれど、物語自体が地味だし個々のエピソードの繋がりも弱いし、何より一番の山場である妻子を捨てた父親の思いに対する決着の付け方に納得がいきません。

 どうして、僕は大学受験をするのだろう。そんな疑問と共に、高校三年生を迎えた少年・真崎は、予備校にてかつての友人である千代川可苗と再会する。四季の巡りを追うように、天才と呼ぶに相応しい彼女と共に紐解かれていく四つの謎。美しき少女の才能に触れる傍らで、少年は未来へ進む目的を探し始める。そして最後に浮かび上がる、可苗に隠された悲しき秘密とは――。目的なき未来に戸惑う少年少女を描く、静かな熱に満ちた青春ミステリ。(カバーあらすじ)

  


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