『密室殺人ゲーム・マニアックス』歌野晶午(講談社文庫)★★★★☆

『密室殺人ゲーム・マニアックス』歌野晶午講談社文庫)

 シリーズ第三弾は、章のタイトルが往年の名作をもじったものであることからもわかるとおり、ミステリのスタイルに意識的な三篇が収められていました。そもそもこのシリーズ自体が、二作目にあたる『2.0』からは【ネタバレ*1】であるのだから、それも当然のことかもしれません。

 第一話「Q1 六人目の探偵士」は〈aXe〉が出題者。被害者の死亡推定時刻には名古屋にいたはずの〈aXe〉が如何にして東京で殺人をおこなえたのか――というアリバイ崩しと、密室の謎の二段構えです。密室およびアリバイの真相が、飽くまでこれは「ゲーム」だというところにフォーカスしたものでした。

 この作品で何より衝撃的なのは、五人だけの閉じたゲームだったこれまでとは違い、公開されてしまったことです。一般人がそれを動画サイトで閲覧して推理を競うという、二重のゲーム性が与えられていました。動画サイトの小さい画面で「外部から見る」ゲームであることを意識された「第二位の推理」などは、ゲーム性とネットの特徴が組み合わされた良くできた面白い推理だと感じました(正解はさらにゲーム度の高いものだったわけですが)。

 第二話「Q2 本当に見えない男」も二段構えの問題でした。出題者は〈頭狂人〉。タイトルのとおり、衆人環視による密室での殺人が扱われています。使い古しのトリックと斬新すぎるトリックという、ミステリマニアに対する挑発的な問題提起がなされていました。タイトルに偽りなし、です。

 「Q3 そして誰もいなかった」の出題者は〈伴道全教授〉。ゲームの公開は行きつくところまで行き、この作品では殺人ライブのストリーミングがおこなわれることになります。タイトルの意味は――。

 エピローグに当たる「A&Q 予約された出題の記録」で、「そして誰もいなかった」の意味が明らかにされました。次巻はシリーズ完結篇だそうですが、第二、第三、と来た、シリーズ通してのゲーム性と匿名性を用いた仕掛けに、このほかどのようなバリエーションが残されているのか楽しみなところです。

 古典的な謎解きの風味があるのは第一話のみで、それ以降はシリーズ通しての仕掛けという趣が強かったです。

 〈頭狂人〉〈044APD〉〈aXe〉〈ザンギャ君〉〈伴道全教授〉。奇妙なハンドルネームを持つ5人がネット上で仕掛ける推理バトル。出題者は実際に密室殺人を行い、トリックを解いてみろ、とチャットで挑発を繰り返す。謎解きゲームに勝つため、それだけのために人を殺す非情な連中の命運は、いつ尽きる!?(カバーあらすじより)

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*1「模倣」

 


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