『Mr. Pottermack's Oversight』R. Austin Freeman,1930年。
タイトルの響きが可笑しかったので思わず手に取りました。
表紙やあらすじを見ると、フリーマン、ソーンダイク博士、とあります。
ソーンダイク博士というと科学的捜査というイメージで、飽くまで当時の科学水準の謎解きだから、今読むと退屈なんじゃないかという偏見がありました。購入しようかどうか迷います。
しかし帯にででんと「倒叙ミステリ」という言葉も。
「英国の田舎に住む紳士ポッターマック氏。彼の生活は執拗なゆすりに耐える日々だった。意を決した彼は、綿密な計画のもとに犯人を殺害する。完璧とも思える隠蔽工作だったが、その捜査に乗り出したのは科学者探偵ソーンダイク博士だった。ソーンダイクはいかにして見破るのか……。倒叙ミステリの創始者フリーマンによる、緊迫感あふれる名品。レディ・モリー、フォーチュン氏、ノヴェンバー・ジョーに続く、〈ホームズのライヴァルたち〉第四弾。」
おお、面白そうだと購入を決意。
そういえばフリーマン=倒叙という記憶もかすかにあるようなないような。
のっけから犯人が隠蔽工作のために(やらない方がいいのにな〜)と思えるような大がかりな小細工を弄し出します。
そんな苦心の隠蔽工作も、どうした偶然からか探偵(の知り合い)がたまたま事件現場に居合わせて、なぜか余計なことをし始めてしまいます。犯人、気が気じゃありません。
今の目で見れば、これはご都合主義というよりも、『古畑』なんかでもおなじみの「パターン」なんだとわかりますが。当時はこういう型はどの程度共有されていたんでしょうね。
その後も犯人はじっとしていればいいものを、わざわざ新たな動きを見せてしまうのも、定石どおり。
ここまではまさに『コロンボ』『古畑』。倒叙のルーツどころか、ほぼ『コロンボ』『古畑』の完成形がここにあります。これにはびっくりしました。帯の「歴史的名作」の文字にもうなずけます。
さて、ここから事件は予想外の方向に動き始めます。足跡トリックのために靴を使いたいのに靴は死体と共に手の届かないところにある――という本書冒頭のジレンマが、別の形で繰り返されるのです。
死体を使いたいのに死体はすでに始末してしまった、というまさかの展開。なんでせっかく隠した死体が必要なの?という理由は読んでのお楽しみ。読者には事情がわかっているのですが、探偵側からするとこれは不測の事態で、通常の犯罪の利害関係からは推測できない展開にソーンダイク博士も「???」。この探偵のとまどいが非常に面白い。犯人はこれまでずっと余計なことをしてしまっていたのに、今回ばかりは余計なこと過ぎて探偵の裏を掻くのがまたなんとも。
ちなみに科学方面は予想通りで、ひとむかし前の作品だと割り引いてください。
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