『御子柴くんの甘味と捜査』若竹七海(中公文庫)★★★☆☆

 倒叙作品集『プレゼント』に出てくる探偵役の小林警部補の部下、御子柴刑事が主人公です。長野県警から警視庁に出向し、そこで遭遇する5つの事件を描いた短篇集。タイトルになっている「甘味」とは、県警からは東京みやげを、東京の人間からは長野の名物をせがまれることにちなみます。探偵役は小林警部補。電話で謎解きをおこないます。
 

「哀愁のくるみ餅事件」★★★★☆
 ――東京で盗まれた盗難車が、長野県で発見された。座席には男の死体、死因は一酸化炭素中毒。果たして事故か事件か。遺体の身許は樋口正治、盗難車の持ち主の隣人だった。兄弟そろってひきこもり、母親は死亡、父親の彰文は失踪していた。近所の人々は父親は殺されているのではと噂するが……。

 息子たちのくずっぷりが半端じゃないので、動機の面から事件を推理(推測)して組み立ててゆくのはなかなか難しそうです。関係者からの聞き取りという、ミステリではともすれば「退屈」になりかねない場面に、伏線をまぶしておく著者の手際に老獪さを感じます。
 

「根こそぎの酒饅頭事件」★★★☆☆
 ――東京で土蔵破りが起こった。便利屋のふりをして堂々と盗んでいったらしい。犯罪者にレンタカーの都合をつける常習犯の深沢は、今回も空とぼけている。だが車に残っていた指紋から、中野と田町という男が浮かび上がった。田町の家を訪れると、縛られている田町が見つかった。家に保管していた盗品は盗まれてしまったと言う。

 どっちにしたところで犯罪者、なので、無関係に思えた人間のつながりが明らかになっても、さほど驚きはありません。話の内容自体も、容疑者が嘘をついていたために二転三転するというのでは、転調に意外性もなく単調でした。
 

「不審なプリン事件」★★★☆☆
 ――スーパーチェーンの社長が白昼堂々三人の男に襲われ、一一〇番しようとした目撃者が殴り殺された。社長は犯人逮捕に懸賞金をかけたが、身許は割れたものの実行犯の須崎は7年ものあいだ逃げおおせていた。そして今、須崎の娘が軽井沢で結婚式を挙げる。須崎は現れるのか……。

 軽井沢の張り込みはドタバタで進行してゆきます(玉森さん意外と無能)が、小林警部補の一言でそのドタバタ自体の意味がくるっと変わります。そういう意図があったからこそ、結果的に(人が集まり)ドタバタになったのですね。
 

「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」★★★☆☆
 ――殴られて記憶を失った男は、ペンションの主人・藤田肇だと判明した――はずだった。病院に面会に来た女性は、亀田勝の妻だと名乗った。男性の特徴が夫に似ているのだという。

 冒頭で起きた事件こそ解決されましたが、いくつかの謎は残ったままです。果たして最終話で明らかになるのでしょうか。
 

「謀略のあめせんべい事件」★★★☆☆
 ――御子柴が右膝を壊す原因になった窃盗犯・岡章二が死体で見つかった。岡の母親のやっているスナックに捜査に行くと、そこで教団信者拷問殺人事件の渦中にある暴力団・間島組の組員・近藤がいた。軽トラを盗んだ近藤は山へ逃げ込んでしまった。

 伏線というのとはちょっと違うのでしょうけれど、犯人の手がかりがあまりにもヌケヌケと書かれていて笑いました。カーにも似たような作品がありましたね、「グラン・ギニョール」だったかな。御子柴くん、夢が叶って(?)何よりです。御子柴が怪我をした過去のエピソード、回想スタイルで詳しく書かれているのは、文字通りのレッド・ヘリング(?)だったとわかり、にやりとさせられます。
 

  


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