「The Fog」「The Anticipator」「King Billy of Ballarat」Morley Roberts

「The Fog」★★★★★
 ――ロンドンを深い霧が覆っていた。自分の手を見ることすらできない。町では暴動や殺人が起こり、自殺者や狂人があふれかえった。この霧はいつまで続くのだろうか……。戦争で視力を失ったTom Crabbだけが、普段通りに動くことができた。

 アンソロジーで読んだ「血の呪物」が意外な拾いものだったのでほかの作品も読んでみたところ、古いタイプの作品とはいえ、とんでもない傑作でした。何も見えない霧に閉じ込められて、盲目の主人公だけが頼りという状況が、簡潔な文章で描かれていて、息づまった雰囲気がひしひしと伝わってきます。彼らはやがて、冒険家の気球で霧のロンドンを脱出しようと試みるのですが――。最後がちょっとメロドラマになってしまうのが残念ですが。
 

「The Anticipator」★★★☆☆
 ――Esplanの書いた小説はどれも、なぜかテーマ・アイデアともにBurfordに先を越されていた。才能も執筆速度もEsplanの方が上なのに――。いつしかEsplanには殺意が芽生えていた。

 創作の〈インスピレーション〉のようなものを具現化させた作品。憑き物が落ちてしまった作家の悲劇です。
 

「King Billy of Ballarat」★★★☆☆
 ――先住民のKing Billyは治安判事の娘Annieと仲が良かった。Kingが白人に殴られたのを見て、Annieは心配そうに傷を確かめた。ひどい帽子をかぶっているのを見て、父親の帽子を与えた。

 これは怪奇小説ではなく、オーストラリアの先住民ものでした。

 怪奇小説の短篇集は稀覯本になっていて入手が難しそうですが、上記三篇はネット上で読むことができます。


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