『Fear In A Desert Town』Roger Fuller，1964年。
原作ではなく、ノヴェライゼーションでした。
一つの完結した作品ではなく、テレビシリーズ『逃亡者』の一エピソードという形の作品です。逃亡先の田舎町で巻き込まれた、とある事件。詳しいことはわかりませんが、小説版オリジナルのエピソードでしょうか。
ただただ逃げ回るサスペンスかと何となく思っていたのですが、追われる恐怖を常に抱えながらそれでもその土地で生活を送ろうとするジレンマや地元の人間との人間関係が中心となっていて、かなり渋い作品でした。
土地の顔役のような男がやっているバーでバーテンに雇ってもらったキンブルは、なるべくもめごとに巻き込まれないようにしようと思っていたにもかかわらず、バーのピアニストが夫から暴力をふるわれているのを見て、思わず殴りかかってしまいます。その夫が土地の有力者一族の息子だったことから、顔役やその愛人、地元の汚職警官をも巻き込んだ騒動が起こりそうな気配が漂いはじめ……。
顔役の愛人の女ぶりのいいウェイトレス、朝鮮戦争の後遺症が原因でキチガイな夫、暴力夫に怯える病的なほど気弱な妻、父の暴力と母の弱気のせいで笑顔を忘れた子ども、自分かわいさのためなら人殺しも取り繕う悪徳警官ら、いずれも一癖も二癖もある翳のある登場人物たちが織りなすハードボイルド。
キンブルを追うジェラード警部の出番が少ない。少ないうえに、初めのうちは医者に対する劣等感でキンブルに辛く当たるみたいな書かれ方なので、追うものと追われるものの一端を担うには荷が重そうで、本書ではあまり存在感がありませんでした。
リチャード・キンブルは逃げた。ただひたすら逃亡をつづけた。故ない妻殺しの汚名を着せられたままの、果てしない逃亡、また逃亡……！ 死刑をいい渡されたキンブルが、冷酷な警部ジェラルド（ママ）に手錠につながれて護送されていく途中だった。全速力で進んでいった急行列車は転轍機の故障でべつの線路に飛びこんだ。強い衝撃、車体がかたむき、頭上で心臓をつき刺すような金属のきしみ音が聞え、電灯が消えた。つぎの瞬間、悪魔の手は客車をこなごなにうち砕き、人びとを殺し、傷つけた。……だが、リチャード・キンブルは、この瞬間に解放されたのだ。手錠がはまっていた右手首をうち砕かれたほかは、彼は無事だった。キンブルは身を転がし、はいつくばって、死んでいく人間や意識を失った人間のからだを越えていった。……そして８ヵ月、キンブルはジェラルドのしつような追求の手をのがれていた――妻ヘレンの無惨な死体と、あわてふためいて走り去る片腕の男の姿を思いうかべながら……明日をも知れぬ果てしない逃亡をつづけるキンブル――だが、そのさきざきでは、キンブルをいやおうなく巻きこむ事件の数々が待ちかまえているのだった！ 待望久し、哀愁の逃亡者リチャード・キンブル登場！（裏表紙あらすじより）
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