『虹果て村の秘密』有栖川有栖(講談社ミステリーランド)★★★☆☆

 ロスナー『虹の果てには』の次に本書『虹果て村』を読むことになったのはまったくの偶然。積ん読だったミステリーランドを片づけようとしたときに、いちばん古い未読作品がたまたまこの作品でした。2003年の作品か。。。8年も積ん読してました。そうかこのころはまだMDウォークマンが主流だったんですね。

 ミステリーランドにふさわしく、主人公は小学生。上月秀介の夢は推理作家、二宮優希の夢は刑事、というのを読んだときには思わず笑ってしまいました。有栖シリーズの小学生版みたいで。

 子供たちにとっては残念な(?)ことに、秀介の父親の方が刑事で、優希(ユー)の母親の方が推理作家というあべこべの親子なのですが、友だち同士の縁で、夏休みのあいだ二人でユーの母親の実家に遊びに行くことになりました。憧れの推理作家の別荘の仕事場と蔵書がおがめるのですから秀介はわくわくです。

 電車ならぬディーゼルカー(有栖川先生は鉄道オタクです^^)に乗って実家のある虹果て村に向かう途中、大人二人が口論しているのが聞こえました。車内で知り合った地元のカメラマンの風間さんによると、村に高速道路を敷くかどうかで賛成派と反対派が対立を繰り広げているということでした。

 迎えに来てくれた親戚の明日香さんは、大学を出たばかりくらいのきれいな人です。夕飯の席では明日香さんのお父さんが、虹果て村に伝わる虹の伝説を聞かせてくれました。曰く、虹の向こうに太陽が見えたら不幸が起こる。曰く、夜に虹を見たら人が死ぬ。曰く、池のほとりで手をつないで虹に願い事をすると叶う。曰く、虹のかかっている下には財宝が埋まっている。曰く、朝に虹を見たらいいことが起きる……。

 ここらへんは有栖川氏のロマンチストな部分が現れてますね。……と思いきや、しっかり伏線だったりするからオソロシイ。

 村にはUFOを信じて全身を緑色に飾り立てる島谷さんや、明日香さんにしつこく言い寄る笹本さんといった困った人たちもいれば、高速道路をめぐる争いを取材に来た記者の新堂さんはついでに推理作家の二宮ミサトさんにもちゃっかり挨拶に訪れ、実家に帰省したモデルか俳優のような光さんのことが明日香さんはちょっと気になる様子。

 そんな折りに事件が起こります。

 バットで頭を殴られた密室殺人。土砂崩れが起こって警察の到着が遅れる。そんなわけで推理作家志望の秀介と刑事志望のユーは、警察が到着するまでに自分たちで事件を解決しようと捜査を始めるのでした。

 刑事になりたいユーの方が、やっぱり作家希望より行動的です。秀介が密室の必然性という点にこだわったり、大人たちが首をひねる密室の謎を初歩的なトリックだと言って解いてしまったり、いかにも推理作家志望らしいところを見せてくれます。それでもってこの密室というのが、何というか田舎だからこそなしえるトリックとでもいうのか、妙に面白かったです。

 被害者がなぜ襲われる前に地図の前で首をひねっていたのか、というのも魅力的な謎ですね。それがわかると同時に密室の謎もわかるという有機的な結びつきは、本書のなかでもミステリとして輝いている部分です。

 あとはやっぱり、ただの子ども同士の○○だと思えるものが、重要な伏線になっていたりするところが上手いですよね。作家の卵にとってあんなことされるのは多分モーレツに……とか想像すると、普通はそっちに気を取られちゃいますものね。

 どこまでがネタバレなのかについての微妙なネタバレ作法もさりげなくアピールされてました。

 推理作家にどうしてもなりたい12歳の少年・秀介は、憧れの作家二宮ミサトを母に持つ同級生の優希(刑事になりたくてしょうがない)と、虹果て村にあるミサトの別荘で夏休みを過ごすことになった。虹にまつわる七つの言い伝えがあるのどかな村では、最近、高速道路建設をめぐって賛成派と反対派の対立が激しくなっていた。そんな中、密室殺人事件が起こり、二人は事件解明におとなも驚く知恵をしぼる。がんばれ、未来の刑事とミステリ作家!(箱裏あらすじより)
 -----------------------

  『虹果て村の秘密』
  オンライン書店bk1で詳細を見る。
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ