『九月は謎×謎修学旅行で暗号解読 私立霧舎学園ミステリ白書』霧舎巧(講談社ノベルス)★★★☆☆

『九月は謎×謎修学旅行で暗号解読 私立霧舎学園ミステリ白書』霧舎巧講談社ノベルス

 霧舎学園シリーズ第六作。2005年9月刊行。

 タイトルに暗号解読とあるように、メインとなる謎は暗号による宝探し/人捜しですが、ほかにもアリバイ、叙述トリック、二人一役、偽の手がかり、探偵の競演、と盛り沢山です。

 ミステリマニアの犯人が計画したミステリマニアの探偵の存在を前提としたミステリマニア向けの小説ではあるのですが、一方で京都を舞台にヒロインが舞妓さんの恰好で駆けまわるという、二時間サスペンスみたいなところもありました。

 それでいて舞妓さんというのがただのキャラ萌え要素ではなく、今回もまた付録を用いて白塗りによる人物誤認が仕掛けられていました。

 京都修学旅行中にもかかわらず、学園の理事長→脇野経由で、理事長の叔父一族の住む倉崎六角屋敷に隠された「アステカの秘宝」を探すことになった棚彦と琴葉。執事の中民によると、どうやら宝物は銀の彫像の立つ中庭に隠されているらしい。そんなとき、倉崎家の次女・明日香がいなくなり、「お嬢様探しゲーム」と書かれたプリクラの貼られた紙が残されていた。紙の裏には「ヒントは本日午前あの部屋に」と書かれていた。部屋で見つかった京都市内の六枚の地図とプリクラに書かれた「1四銀」の文字から、次のヒントの場所を推理した。明日香が呼んでいた探偵「なるさん」と琴葉は失踪した明日香の行方を追うため屋敷を離れ、棚彦は屋敷に残ってアステカの秘宝探しを続ける。料理長の戸田山によれば、倉崎敬吾はすでに死んでおり、執事の中民が何か企んでいるらしい。三女の昨夜子が夢中歩行の最中にペガサスの角に串刺しにされた敬吾を目撃したというのだ。

 一方、横浜の学園に残っている三年生の保とのの子は、保の妄想にも近い推理力によって白レンガ棟の定礎の下から『倉崎財閥の秘宝』と題された原稿を見つけていた。「銀色に光り輝くペガサスの角に一人の男の死体が貫かれていた」という文章から始まっているその原稿の最後には、「1一香」と書かれていた。1階第一資料室に香山先生が監禁されているのではないか。果たして資料室には次のヒントが――。

 本書の目玉は何と言ってもミステリマニアの探偵を当て込んだ二重三重の暗号です。しかも探偵による推理を前提とした仕掛け――と思わせておいてさらに反転させて【みずからがその探偵になる】ことでその仕掛けを運任せではない確実なものにすると同時に、両シリーズを通した大仕掛け【※なるさん=鳴海雄一郎と誤読させる叙述トリック】にもなっていました。

 明日香誘拐&香山誘拐事件の暗号は将棋の棋譜になぞらえた比較的単純で正統派の暗号で、暗号の場所探しよりも暗号の意図・目的に謎があります。特殊な知識が必要な暗号はフェアではないというメタな発言から、白レンガ棟の由来が伏線として生きてくるのは見事でした。それにしても、いくら探偵の存在を前提とした暗号であるとはいえ、保のこじつけ推理が当たってしまうのには、さすがに保の探偵としての力量が見くびられているようで可哀相でした。

 一方のアステカの秘宝探しの暗号は、彫像全体の配置をもとにした【十二辰刻】の推理にしても、暗号文の単語【六つ≠六つ時】を正しく読み直した赤い光の推理にしても、いずれもすっきり割り切れるきれいな解答で、偽の真相も本当の真相どちらも優れているのは珍しいと思います。これまでのシリーズにも関係者が作った小冊子〈霧舎学園ミステリ白書〉が何冊か出てくるため、『倉崎財閥の秘宝』もそうしたののの一冊なのだろうと思っていましたが、ペガサスの角に貫かれた死体を描くことで、犯人の正体を【被害者はサソリの彫像の真上にある自室から落ちたのではなく、ペガサスの彫像の真上の部屋に住む今日子に突き落とされたと】誤誘導する役割を担っていたとは思いも寄りませんでした。すべては探偵の推理のために用意されていたことになります。

 その『倉崎財閥の秘宝』にも描かれているためいかにも曰くありげな角のあるペガサスですが、【彫像に施されたいかにも思わせぶりな偽の手がかりの一つ】だったのにはすっかり騙されてしまいました。

 プリクラの仕掛けに目が行ってしまいますが、本書は登場人物表にも仕掛けが施されていました。単純に、脇役にはふりがなが振っていないだけだと思っていたのですが、なるほどこれも一種の【叙述トリック】ですね。冬美の妹というさり気ない描写(p.216)が効いていました。

 全体としては凝りに凝った仕掛けが施されていましたが、さすがに複雑すぎるきらいがあり、読み終えたときのカタルシスは乏しかったです。

 本書に登場する倉崎昨夜子とその家庭教師の毬生美貴は『推理は一日二時間まで』にも登場しています。

 ミステリネタでわからなかったものがいくつかありました。明日香井叶は、綾辻行人『殺人方程式』の主人公の刑事。キミサワ本社と葬送銀貨は、『金田一少年の事件簿』「仏蘭西銀貨殺人事件」。

 九月。霧舎学園2年生の二学期に入って最初のイベントは京都への修学旅行。琴葉と棚彦は学園理事長のさしがねにより、京都の六角屋敷で、ある秘宝を探す羽目に。手がかりは六枚の地図とプリクラ。プリクラに書かれた「1四銀」の暗号を解く鍵は?

 学園ラブコメディーと本格ミステリーの二重奏、「霧舎が書かずに誰が書く!」“霧舎学園シリーズ”。九月のテーマは暗号解読!(カバーあらすじ)

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