『虹の果てには』ロバート・ロスナー/山本俊子訳(ポケミス1302)★★★★☆

 『The End of Someone Else's Rainbow』Robert Rossner,1974年。

 追われる犯罪者と、それを執拗に追いかける刑事――。

 そんなサスペンスの常道ながら、この作品がひと味ちがうのは、犯罪者がすでに二十年の刑期を務めあげているところです。刑期を務めたのになぜ追われているのか、というと、盗んだ金の隠し場所を洩らさなかったから。

 すでに終わった二十年前の事件を忘れることなく、当時事件に当たっていたジャビット警部補は、出所したばかりのワイリー・ブリッジャーをつけ回します。ブリッジャーが金の隠し場所を訪れ、金を取り出すに違いないと信じていたからです。

 何せ二十年前の事件を忘れないくらいですから、ジャビットの執念はほとんど異常の域に達しています。そもそも当時まだ若者だったブリッジャーが銀行強盗をおこなったのは、何となく退屈だったからで、金に執着があったわけでもなかったのですが、暴力刑事として有名だったジャビットから無意味な暴力を受けたことで意固地になってしまった経緯があります。

 ジャビットはもともとがそういう人で、暴力が原因で警察内でも煙たがられ、妻にも去られたくらいですから、故郷に戻ってきたブリッジャーに対しても、度を越した嫌がらせを繰り返します。管轄区域でもないのに村中で警察手帳をちらつかせて我が物顔で振る舞い、人目のないところではブリッジャーに殴りかかり、隠した金に手をつけざるを得ないように仕向けるためブリッジャーの過去を広めて仕事をやめさせようとしたり、ほれぼれするような悪役ぶりでした。

 ジャビットが極悪なおかげで、どちらかといえばアブナイ奴っぽいブリッジャーがいい人っぽく見えるから不思議です。みんなブリッジャーには好意的なんですよね、なぜか。余所者には冷たい村人がジャビットを嫌ったり、昔のことを覚えているのは老人ばかりだから町の(元)子どもには優しかったりというのはわかるんですが、新参者の食堂のマスターや図書館の司書までみんな親切。

 図書館の司書フランシーヌ・ペニーパックにいたっては、画家になる夢を諦めて町に埋もれている自分を、ブリッジャーに重ね合わせて、何か新しいことにチャレンジしようと決意するまでに影響を受けています。

 そして、そんな彼女の協力なくしては、ジャビットを出し抜いて金を取り出すことは不可能なのでした……。

 ブリッジャーは金を無事に取り出すことができるのか、ジャビットに見つからずに町を抜け出すことができるのか、町の人間から裏切られないかという疑心暗鬼、ジャビットに邪魔されて生活することすらできないのではないか……大金をめぐるサスペンスでした。

 本書のジャビットをはじめ、『逃亡者』の警部はジェラードだし、『レ・ミゼラブル』のジャベール警部や『パリのモヒカン族』のジャッカル刑事など、なぜか印象的な警察の追跡者はみんなジャ行。

 ワイリー・ブリッジャーが十九年ぶりに帰ってきたオークハロウの町は、大きく変わっていた。建ち並んだ新しい家々、顔さえ知らぬ人たち。無理はない、看守にこづかれながら重労働に明けくれた州刑務所農場での十九年間に町も人も彼をとりのこして動きつづけていたのだから。だが、変わってはいけないものがある。あの大きな木――彼に残されたただ一つの夢である十七万ドルの現金をその根もとに埋めた、あの木だけは……十九歳のとき、ブリッジャーは熱に浮かされたように町の銀行を襲った。逃げる算段もなく、ひとりで押しいったのだから、奪った金を隠すのがやっとであっけなく逮捕された。二十年の懲役刑――それも、金の隠し場所を頑として明かさない彼に減刑の恩恵はわずかだった。いま彼のまえにある木は昔のままだった。しかし、十七万ドルを掘りだすのは容易ではなくなっていた。木の周囲は図書館の駐車場になり、地面はコンクリートで固めている。そのうえ、かつてブリッジャーを逮捕した警官ジャビットが町に来ていた。彼はブリッジャーが金を取り戻したところをおさえようという、異常な執念を燃やしていたのだ。だが、ブリッジャーも十九年を犠牲にした金を、簡単にあきらめられるはずがなかった! 地中に埋められた十七万ドルをめぐって盛りあがるサスペンス! 快調なテンポと語り口の傑作犯罪小説。(裏表紙あらすじより)
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 虹の果てには 『虹の果てには』(ポケミス
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