今回の日本人作家特集はありがたいことに、新人作家特集でした。しかし表紙はもっと何とかならないものか。。。
「ヨハネスブルクの天使たち」宮内悠介 ★★★★★
――「来週、赤十字の車を襲う」と仲間の一人が割りこんできた。「相手が軍だから、街の連中も見逃してくれるんだ」とスティーブは言った。……PP1713は自分の置かれた状況がわからない。1461回目の落下。日本製の堅牢な機構は彼女に死を許さない。……発端は、北部がズールー族を中心に連合したこと。部族間の抗争を止めるのが目的だった。
抗争が絶えない近未来の南アフリカ共和国を舞台にした、一つの時代の年代記。永遠に落ち続ける少女ロボットという変わらないものと、対して成長して変わり続ける少年と少女が触れ合う瞬間、何かが変わりそう……な気がします。落下するロボットのイメージはロビタを連想してしまいました。
「小さな僕の革命」十文字青 ★★☆☆☆
――このクソみたいな世界をぶっ壊せ! ネットに仕掛けた“祭り”の行方とは。(袖惹句)
新城カズマや山本弘の作風に連なるような、現実を取り込んだ近未来ライトノベル。ただしオタクキモオタレベルが比べものになりません。
「不思議の日のルーシー」片理誠 ★★★☆☆
――ドン・ボスコを知らないか、とその少女は後ろから僕に声をかけてきた。振り返った僕はちょっと驚いていた。妖精でも現れたのかと思った。「大きな猫なの。白と黒の」僕と同じ、近所を散歩、のスタイル。出で立ち。でも僕が初めて出会う女の子。親戚の家にでも遊びにきた子なのだろうか?
ヘンリーさんがファンタジー作家で内容もファンタジーだった方がしっくりきそうな話なのですが、この結末になるためにはSF(というより科学)でなくてはならないのでしょう。
「真夜中のバベル」倉数茂 ★★★★☆
――恋するにはシロウのことを知りすぎている。星から落ちてきたような孤独な天才少年。幼稚園の頃、シロウはよく奇妙な言葉を話すことがあった。ある日、スーツ姿のおじさんたちがやってきて、話しているのが数十の言語の混合であることをつきとめた。
ダーク・ファンタジー『黒揚羽の夏』の作者らしく、進化と人間の可能性とキャパシティといったSFガジェットが登場するものの、青春の哀しい思い出をつづったダーク・ファンタジーという側面が強く、『黒揚羽の夏』を気に入った方ならこちらも楽しめるはず。
「ウェイプスウィード(前篇)」 瀬尾つかさ
――衰退した地球で巫女として他星との外交を受け持つ少女と、地球で独自に進化を遂げた海洋生物を研究するために訪れた研究員との交流。
前篇。これもファンタジー風ですが、ウェイプスウィードという生物の細かい設定がこれからも生かされていきそうで楽しみです。
「書評など」
◆映画『ダーク・フェアリー』は、ゴシック・ホラー。『パーフェクト・センス』は、「『盲獣』のような世界へ突入する」そうです。
◆『冷たい方程式』は半端じゃなく期待はずれでした。マシスン『リアル・スティール』は角川版が傑作選+未訳作、ハヤカワ版がマニア向けといったところ。『第七階層からの眺め』のケヴィン・ブロックマイヤーは、2007年12月号でケリー・リンクが好きな作家として挙げていた一人。若島正『乱視読者のSF講義』はいわずもがなです。そして恩田陸『夢違』、レーモン・クノー『最後の日々』。
「海浜自由生活者はいまどころさすらうか」椎名誠のニュートラル・コーナー
『怨讐星域』(21)「七十六分の少女」梶尾真治
「SFのある文学誌(2)」長山靖生
今回は『飛騨匠物語』。
「サはサイエンスのサ」(201)鹿野司
進化論。
「MAGAZINE REVIEW 〈F&SF〉誌 2011.5/6〜2011.7/8」橋本輝幸
「乱視読者の小説千一夜(14)」若島正
デーモン・ナイト『Humpty Dumpty』。
「大森望の新SF観光局(27)」
誰もがみんな銀背銀背と騒いでおりますが、思い入れのない人間にとっては、とてつもなくダサく見えてしまいます、安っぽい銀の背表紙は。