『ミステリマガジン』2012年3月号No.673【特集 逆転裁判/逆転検事に異議なし!】

 逆転裁判逆転検事のクリエイターお二人のインタヴューのほか、お二人が敬愛するバークリイ「帽子の女」再録、法廷ミステリ「正義」スチュアート・M・カミンスキー、弁護士ミステリの代表格E・S・ガードナー「浄い金」再録。

「帽子の女」アントニイ・バークリイ/青田勝訳(Mr. Simpson Goes to the Dogs,Anthony Berkeley,1946)
 ――生まれて初めて競犬場に足を踏み入れたシンプスン氏は、女の手が隣にいる男のポケットのなかに入っていき、また出てきたのを目撃した……。

 善人が勝手にドタバタして悪い方悪い方を選んでぬかるみに嵌ってゆく、古き良きサスペンスの香りたっぷりの作品でした。とはつまり、ハラハラドキドキに加えてニヤニヤしながら楽しめました。
 

「正義」スチュアート・M・カミンスキー/北野寿美枝訳(Justice,Stuart M. Kaminsky,1996)
 ――男爵夫人が無惨に殺された。殺人の嫌疑をかけられたのは愛人の青年だった。法廷は正義が果たされるにはほど遠かった。陪審員が被告の政治思想を批判することもあった。良家の被告人に判事が慈悲を与えることもあった。

 正義の裁きは望むべくもない19世紀ロシアの法廷が舞台となった作品。悪意に満ちたほどに下卑て描かれる傍聴人や陪審員の様子からは、裁判というより公開処刑に近かったのであろう現場の雰囲気が伝わってきます。正義のゆくえよりもむしろアナーキー(?)な青年詩人被告人が記憶に残りました。
 

「浄い金」E・S・ガードナー/平出禾訳(Honest Money,E. S. Gardner,1932)
 ――呑み屋が手入れにあい、亭主は客のふりをして難を逃れたが、妻が警察に捕まってしまった。しかも警官に賄賂をつかませようとしたかどで重罪になる可能性があるという。裏にはいったい何が……?

 本篇はペリイ・メイスンものではなく、活躍するのは弁護士ケン・コーニング。袖のコピーに「タフガイ弁護士」とあるとおり、本篇では弁護士らしいところは描かれず、完全に私立探偵小説でした。今となっては珍しい個性の強い訳文が印象的です。
 

「over the edge」堂場瞬一
 新連載。

「トッカン the 3rd おばけなんてないさ」高殿円
 新連載。

「迷宮解体新書(50) 黒田研二」村上貴史
 

「ヴァイオリニスト」ロバート・ブロック/植草昌実訳(The Fiddler's Fee,Robert Bloch,1940)
 ――ニッコロ・パガニーニは悪魔の申し子にちがいない、と人は言う。旅籠の息子の名もニッコロといった。高名な演奏家の前でヴァイオリンを披露したニッコロに、パガニーニは囁いた。「お前に真の師をつけてやろう」

 悪魔との契約もの。確かに『サイコ』が有名な著者ですが、本誌紹介文にわざわざ「『サイコ』の」と断わりが入れてあるのにはそれなりのわけがありました。『サイコ』のある趣向を連想させる部分があるのです。
 

「書評など」
『短くて恐ろしいフィルの時代』ジョージ・ソーンダース、『フィデリア・ダブの大仕事』ロイ・ヴィカーズ、『都市と都市』チャイナ・ミエヴィル、『キングを探せ』法月綸太郎あたりが気になりました。
 

「独楽日記(51)これまでの震災の話をしよう」佐藤亜紀
 twitterと震災後について語る。「幾らか」?
 

「ミステリ・ヴォイス・UK(51)新作シャーロック・ホームズ」松下祥子
 ガイ・リッチーのホームズ映画新作に、BBC「シャーロック」の新作に、ドイル社公認贋作アンソニーホロヴィッツ「絹の家(The House of Silk)」、と目白押し。

「そして俺もいなくなった (9)」岡野宏文 泉鏡花「眉かくしの霊」「沼夫人」
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