『ヤマグチ マサヤズ ミステリ マガジン』と称して、名作再録+α。
「退化した人たち」チャールズ・アダムス/山口雅也訳
チャールズ・アダムスの一コマ漫画より、山口氏が選んだもの。
「目撃」スティーヴン・バー/各務三郎訳(The Mirror of Gigantic Shadows,Stephen Barr)
――エリックとカーロッタは野鳥を見に出かけた。小道の先でエリックが立ち止まった。「何が見えるの?」「なんでもない」数日後、エリックは姿を消した。
こういうタイプの作品はこうして単発で読む方が、結末の意外性を楽しめそうです。直前に喧嘩していたというのが伏線でもありミスディレクションでもありました。
「白柱荘の殺人」G・K・チェスタートン/村崎敏郎訳(Dr. Hyde, Detective, and the White Pillers Murder,G. K. Chesterton)
――モース氏は石段の下で殺されていた。逃げていく犯人の輪郭だけは目撃されたが、指紋は一つもなかった。モース氏の弟からその話を聞いたアドリアン・ハイド博士は……。
読み終えてから改めて見ると大胆な原題です。「人が言つていることをただ聞くのとその言葉の意味を聞くのとはまつたく別」というワトソン役の台詞から、クリスティ風の作品を予想したのですが、想像を上回っていました。
「1ドル98セント」アーサー・ポージス/伊藤典夫訳($1.98,Arthur Porges)
――ウィルがイタチから救ったネズミは、神さまだった。一と百分の九十八インチの身長しかない神さまは、一ドル九十八セント分の願いしか叶えることはできなかった。
強引なオチなのか、それともこういう事実があってそれに合わせて198という数字を決めたのか、それが気になります。
「ストーリー展開について」ジョン・ディクスン・カー/森英俊訳
カーによるミステリ造りについてのエッセイ。カーの物語造りのうまさは自覚的なものだったんだとわかりました。
「帰ってきた『ミステリーDISCを聴こう』」山口雅也
「町みなが眠ったなかで」レイ・ブラッドベリ/都筑道夫訳(The Whole Town's Sleeping,Ray Bradbury)
――ローンリイ・ワンが女の首を絞めて歩いているっていうのに、ラヴィニアとフランシーンは暗い夜に映画に行こうとしていた。
ウールリッチでもわかるとおり、ロマンチックなサスペンスというのは相性がいいようです。何か起こりそうで起こらない、いつ起こるのだろう、という引きが上手いです。続編というのは「At Midnight, in the Month of June」でしょうか。
「では、ここで懐かしい原型を……」ロバート・シェクリイ/伊藤典夫訳(Meanwhile, Back at the Bromide,Robert Sheckley)
――お尋ね者ヴィラディンにも年貢の収めどきがきたようだった。FBIに追われ、森を抜け山を登り、採石場に出た。まだチャンスはある。器用に偽物の石を作り始めた……。
ショートショート三話。開き直ったタイトルに脱帽です。アイデアに対する自信のほどがうかがえます。
「殺人生中継」ピエール・シニアック/末継昌代訳(Situation: Critique,Pierre Siniac,1938)
――戦争に特派員が行くなら、殺人現場に特派員が行ってもいいではないか。そんな馬鹿げた主張から、殺人評論家は法で保護され、殺人犯は予告をして評論家を呼び寄せ、警察の鼻をあかしているのだ……。
初訳作品。ヘンテコミステリ『ウサギ料理は殺しの味』の作者だけあって、やはり発想が変な作品でした。パロディっぽくなく真面目に書いていそうなところが面白い。
「迷宮解体新書(56)山口雅也」村上貴史
「ドナルド・J・ソボルが遺したもの」福井健太
聞き慣れぬ名前ですが、『2分間ミステリ』と少年もの『少年探偵ブラウン』の作者でした。
「第二回 アガサ・クリスティー賞 受賞作発表/選評」
第二回受賞作は中里友香『カンパニュラの銀翼』。「一般的なミステリの枠に収まらない」「奇想小説」。
「短篇ミステリがメインディッシュだった頃(5)MANHUNT(2)」小鷹信光
販売部数が六十万部、八十万部。すごい。
「逆転の刃先き」リチャード・マーステン/小鷹信光訳(Switch Ending,Richard Marsten)
――五年ぶりに出所したダニーは、息子の居場所を探した。よりにもよって、コニーに入れあげニックに心酔しているらしい。
エド・マクベインの別名義作品。おまわりとの腐れ縁や、変わってしまった息子、この狭い町の感じが好きです。
「ありがとうが言いたくて(4)」我孫子武丸
人形シリーズのイラストレーターへの感謝の言葉。人形シリーズの四作目が出ていたことに初めて気づきました。
「書評など」
◆今月号は初めから気になっていたものばかり。デュレンマット『失脚/巫女の死』、ロイド・シェパード『闇と影』、マシュー・クワーク『The 500』、レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』、彩坂美月『文化祭の夢に、落ちる』、、サセル・アイラ『わたしの物語』、『THE FUTURE IS JAPANESE』