『ミステリーズ!』vol.53 2012年6月【北欧ミステリの粋/伊坂幸太郎インタビュー】

伊坂幸太郎ロングインタビュー 『夜の国のクーパー』刊行記念」

 「異世界」「連城三紀彦」と気になるキーワードが。
 

スカイツリーを君と ねじまき片想い 宝子のおもちゃ事件簿」柚木麻子 ★★★★☆
 ――おもちゃ会社の商品開発室で働く宝子は、デザイナーの西島に五年前から片思い中だった。向かいのマンション屋上に突然貯水タンクが設置され、部屋からスカイツリーが見えなくなったと、残念そうに語る西島のため、宝子は貯水タンク設置の理由を探ろうとする……。

 謎解きよりも宝子の日常が中心の身辺雑記コメディのような印象ですが、日常の謎から犯罪に直結した真相は、一見すると場違いに大がかりなものながら、制度の盲点を突く社会派であったりもするわけです。チェスタトンのあれを日常に取り入れたところが面白い発想だと思います。
 

「サイクル・キッズ・リターン西澤保彦 ★★★☆☆
 ――被害者の高校生は、自転車に乗っているところをバットで強打され死亡した。単純な通り魔による犯行と思われたが、被害者の鞄から出てきたのは、去年通り魔事件で亡くなった被害者の生徒手帳だった……。

 音無警部シリーズ。タイトルからわかるとおり自転車が事件のキーワード。警察の点数稼ぎとマスコミの自転車=悪の大合唱でうんざりしているのが現実ですが、それをさっそく取り入れた作品です。いやしかし改めて、高校生が無免許で乗るものに保険っておかしい。……と、内容とは関係のないことを思ってしまった。
 

「書店の窓から」

 桜庭一樹ファンにおすすめの本を桜庭一樹におすすめした話。
 

「仮面」深緑野分
 ――アトキンソン医師がバルベル夫人に注射して二時間……夫人は事切れていた。メイドのアミラが「誰にも会いませんでしたか?」とたずねた。「ああ。これで俺たちは共犯だ」……すべては誤診が元でバルベル氏が死に、氏が経営していたキャバレーが閉鎖されるのがきっかけだった……。

 ヴィクトリア朝ミステリ、ということで期待したのですが、ちっとばかし説教臭い。
 

「ホームズ書録(3) 新発掘!「ホームズ対ルコック」とは一体なんぞや?」北原尚彦

 ホームズの弟子とルコックの弟子が推理を競う『五人の探偵』ガブリエル・ベルナァルという作品が新青年に翻訳されていた、というお話。
 

「私はこれが訳したい(4)」日暮雅通
 『The Complete Annotated Father Brown』。こんなの出てたんだ。欲しい。
 

魔の山の殺人』(4)笠井潔
 ――ジゼールの死を警察に知らせようとしたが、吊り橋が落ちていて渡れない。ナディアとカケルは事件を検討するも、ジゼールが殺されたことにはカケルも戸惑っているようだった。

 今回の見どころは、何と言っても「信じられないことだが、どうやらカケルは困惑しているようだ」という場面でしょう。いったい真相は何なのかと、楽しみでなりません。
 

「北欧ミステリの粋」

「アーナルデュル・インドリダソン、ついに日本上陸」柳沢由実子
 『湿地』著者インタビュー。アイスランドの作家。普段アイスランドに接することなんてないから、アイスランドではファーストネームが正称だというのも初めて知りました。

「ヘニング・マンケルを訳して」柳沢由実子
 

「あなたの肌を感じる」アンナ・ヤンソン/久山葉子訳(Jag känner din hud,Anna Jansson,2011)★★★★☆
 ――マッサージ師というのは、自分は見られずに相手を見る存在だ。あの子は――妹のミリアムは――幸せになるには美しすぎた。叔母が葬式でそう言った。

 志賀直哉のあの作品を思い出しました。じかに手で触れるマッサージだからこそ、あの作品よりさらに意外で、さらに怖い。↓のコラムによると、著者は「テレビのない時代、祖母が語るゴッドランド島の伝説を聞いて育った」「本物のストーリーテラー」らしいので、「怪事件が発生する」長篇が読みたい。
 

スウェーデン・ミステリの今」久山葉子
 上記アンナ・ヤンソンのほか、「少々SF的な要素が入る」ヤン・ヴァレンティンの『Strindbergs stjarna』あたりが気になりました。邦訳を待ちたい。
 

「ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション(4) クライム・クラブ編3」川出正樹
 個別の作品について。今回は本格編。けっこう面白そうな作品が文庫化されずに残っていることに驚きました。コリン・ロバートソン『殺人の朝』は、一見むかしのお屋敷ふうミステリなのですが、ラストに至って「『殺人の朝』という味も素っ気もないタイトルが、これ以上ないほどふさわしいものとして実感されることだろう」という一作。ベルトン・コップ『消えた犠牲』は、「ひねりの効いた渋いユーモアがほのかに漂う技巧派謎解きミステリ」。先入観なく読んでほしいそうです。「アメリカのP・G・ウッドハウスジャック・アイムズ『のぞかれた窓』は、「なんじゃ。こりゃ」。アーサー・アップフィールド『名探偵ナポレオン』は、皇帝ではなくそういう名前の名探偵が主人公。

「レイコの部屋」
 今回は北原尚彦。

「第三回創元SF短編賞受賞作決定」

 


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