『The Singing Bone』Austin Freeman,1912年。
「オスカー・ブロズキー事件」(The Case of Oscar Brodski)★★★☆☆
――宝石商人を家に泊めたサイラスは、ふと魔が差して、宝石を盗もうとした。格闘の末、商人を殺したサイラスは、殺害の証拠を隠すため死体を列車に轢かせようとするが……。
長篇『ポッターマック氏の失策』では、コロンボや古畑に連なる倒叙もののほぼ完成形がそこにありましたが、本篇ではまだホームズ流の色も濃く残されています。ワトスン役のジャーヴィス医師が語り手を務め、ソーンダイクの解説に感嘆する――というのが、本篇の場合は物語の邪魔になってしまっていました。さすがに科学的には時代の限界をモロにかぶっていますが、工作を終えた犯人がブレーキの音を聞いて列車が急停車したのを知るあたりの、犯人のやきもきを伝える盛り上げ方が上手です。
「計画された事件」(A Case of Premeditation)★★★☆☆
――今は成功したペンベリー氏だったが、実は脱獄囚であった。それをかつての看守プラット氏に見抜かれ、脅迫を受けたペンベリー氏は、プラット氏の殺害を計画する……。
これは警察犬万能観に対する批判という意味合いが大きい作品のようです。香水をつけた凶器を警察犬に追わせて、別の犯人を用意しておく、というのが今回の犯人の計画ですが、犯人が策を弄したばっかりに偽犯人の犯行ではないと見抜かれるところや、予期せぬ通行人がいたために犯人の行動が行き当たりばったりになってしまうところなど、現在の倒叙ものに近い「らしさ」を持った作品でした。
「反抗のこだま」(The Echo of a Mutiny)★★★☆☆
――灯台守のジェフリーズのもとに新しい同僚が船で到着した。だがそれは、かつて犯した人殺しの共犯ブラウンだった。ジェフリーズがこんなところで暮らしているのも、警察とブラウンから身を隠すためだった……。
この作品の第二部タイトルが「歌う白骨」。白骨が歌い出して罪を暴くというドイツ民話があるそうです。「歌う白骨」という言葉が魅力的ではあるものの、犯人がとりたてて偽装工作をするわけでもなく(船と死体を海に沈めるだけ)、したがってソーンダイクも犯人の奸智を見抜くのではなく淡々と推理しているだけで、あまり印象に残らない作品でした。
「落魄紳士のロマンス」
「老いたる前科者」