「そばにいたい」森井暁正、「影踏み」豊田徹也、「花の心臓」鈴木真澄、「コインは猫を殺す」西の智、「マグロ」北田尾火、「さよなら畜生」北田おか、『おおきく振りかぶって』24、『げんしけん』17、『ポム・プリゾニエール』鶴田謙二、『マスターキートン Re マスター』

「そばにいたい」森井暁正(『good!アフタヌーン』2014年12月号)★★★★☆
 四季賞2012年秋のコンテスト萩尾望都特別賞受賞作。四季賞ポータブルが廃止されてから本誌には四季大賞しか掲載されなくなってしまいましたが、なんと(!)萩尾望都特別賞が『good!アフタヌーン』の方に掲載されていました。四季賞受賞「ボインちゃん」も本誌 2015年1月号に掲載されていましたし、やはり大賞以外も読みたいという声も多かったのでしょうね。

 フラれてばかりの高校生・矢島勘六がナンパした少女・真田多喜は、自分とつきあいたいなら、ずっと手を離さないこと、という条件を出した。多喜は人に関する記憶を持続することができない限定的健忘症で、人と触れ合っている内だけ確実に覚えていられるのだった。

 ざっくりした素朴な感じの絵柄がテーマとぴったりです。たぶん何にも考えていないであろう感じの男子高校生ががむしゃらに突っ走るというのはマンガの王道ですが、そういう人間だからこそ救える(かもしれない)ことというのもあるわけで、これもマンガというジャンルとテーマがぴったり寄り添っていると思いました。今回の四季賞は良作ぞろいでした。
 

「影踏み」豊田徹也(『good!アフタヌーン』2015年1月号)★★★★★
 翌月号には豊田徹也の久々の読み切りが! 『蟲師』トリビュートの一篇で、何と探偵さん(山崎)も登場する、つまり『アンダーカレント』や『珈琲時間』や「ミスター・ボージャングル」と同じ世界で起こった出来事なんです。

 探偵の山崎は中学生・長谷川真帆から依頼を受けた。母親の里美が突然姿を消してしまったので、探してほしい。母親が消えた状況に不審を抱いた山崎は、現場近くで「虫」を取っている老人に出会った……。

 『蟲師』第9巻「残り紅」「壺天の星」を下敷きにした作品で、こういう言い方はプロの漫画家さんに失礼だとは思いますが、しっかり豊田作品になっているところがすごいです。
 

「花の心臓」鈴木真澄(『good!アフタヌーン』2015年1月号)★★★☆☆
 同じ号に載っていたのが、四季賞2011年秋のコンテストで準入選だった著者の読み切り。佐野保春「だった」存在は、目が覚めると光合成で生きられる生物になっていた。記憶をなくしている彼は研究者の相原築子に詰め寄るが、「ボテ」と名づけられ、「先輩」に会いに連れられ……。 ピペットをヘアピン代わりにしているのが、さまになっているところがすごいです。差してる本人的にも、納得させちゃう著者的にも。結びの「誕生日おめでとう」の言葉にじいんと来ます。
 

「コインは猫を殺す」西の智★★★★★
 今月号先月号のアフタ・goodアフタに四季賞がらみの作品が掲載されていたので、ほかの作品ももしや……と思って探してみたところ、雑誌掲載ではありませんが、2014年夏のコンテスト四季賞受賞作を、著者本人が「西のトモ」名義でpixivに投稿しているのを見つけました。

 高校教師・大葉は、記憶が飛ぶ症状に悩まされていた。コインを投げ、結果の確定後、何事もなかったかのように思い出す。まるでコイン投げによって世界が後づけで決定されるかのように。バレー部の顧問に熱意を向けない一方で、不登校の塚田の相談にはよく乗っていた。コイン投げの症状を塚田に相談していた、というべきか……。

 高橋ツトム氏が本誌2014年9月号の選評で触れていたように、絵が雑です(^^; 正確に言うと、雑というか、ラフ、です。ラフでありながらこれだけ説得力の絵が描けるのはむしろ才能なのでは……とも思ってしまいますが。シュレーディンガーの猫を軸にしたSFにして、やっぱり漫画の王道は青春ものだな、と実感するような内容でもありました。これだけ理屈っぽい話でありながら、理屈抜きに心にぐさっと刺さる結末に着地するのは、ほんとうにすごいと思います。
 

「マグロ」北田尾火(『IKKI』2007年8月号)★★★★☆
 『螺旋のドギー』の北田おかのデビュー作。累と伊空のようなサドとマゾの関係がすでに描かれていました。内田加代は僕にだけ時々「怖い目」を向ける。「どうして?」そうたずねたとき……。題材からしてキワモノめきかねないところを、重すぎず軽すぎず、学園青春恋愛ものとしか言いようのないものになっています。
 

「さよなら畜生」北田おか
 IKKIサイトに掲載のweb読み切り。 俺は死ぬのか? ケンカで刺されて死亡だなんて……気づくと吟太は「あの世」にいた。郁子のこと。堕ろさせたこと。殴られたこと。業と輪廻をめぐる、ちっぽけだけど壮大な物語。

おおきく振りかぶって』(24)ひぐちアサ講談社アフタヌーンKC)
 横綱・千朶に勝ちに行き、互角の勝負を展開中。三橋がちゃんと考えて阿部と会話できるようになってます。おまけ漫画は若い頃の三橋母の続き。この表紙は何なんだ。。。

げんしけん 二代目の八』(17)木尾士目講談社アフタヌーンKC)
 斑目先輩ハーレムの巻。

『ポム・プリゾニエール La pomme prisonnière』鶴田謙二白泉社
 『楽園』に連載されていた「ひたひた」の単行本化。「廃墟」「猫」「裸」がテーマだそうな。ちょっとエッチな漫画が載っている雑誌だから裸だと思っていたのですが、裸ありきだったんですね。著者の描くおんなのこはほんとスタイルがよくてかっこいい。スタイルがよくて女っぽいんじゃなくて、すらっとしていてのびのびとして堂々としてかっこいいんです。

MASTERキートン Reマスター浦沢直樹長崎尚志小学館ビッグコミックス
 不定期連載の単行本化。どうやら続刊はなく単発もののようです。何度見てもやはり絵が好きになれません。随所に往年のキートンらしさはあるものの、一話目・二話目は、ロシア大統領候補だとかクロアチア独立戦争は俺のせいだとか、無駄にスケール大きくしてちょっと失笑でした。三話目「マリオンの壁」は新説がしょぼい。最終話「栄光の八人」では、「フォークランド紛争の英雄」とされていたキートンの過去がようやく垣間見られました。大人になった百合子の顔が変わりすぎで別人です。好きなのは、キートンらしい真偽不明なトリビアの「ハバククの聖夜」、イギリス情報部員と対等にわたりあう「オオカミ少年」、掉尾を飾る「栄光の八人」でした。

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