『アンデルセン童話集 上』ハリー・クラーク絵/荒俣宏訳(文春文庫)★★★☆☆

 ハリー・クラークの挿絵目当てで購入。すべて白黒なんですね。多少値段が高くなってもカラーはカラーのまま掲載してほしかった。
 

「ほくち箱」
 ――魔法使いからほくち箱を手に入れた兵隊は、火打ち石を叩いて犬を呼び出し、願いを口にした。

 高野文子『火打ち箱』で知った作品。ハリー・クラークは彩色画よりも、魔法使いと兵隊の場面のような、細かい線画のほうが断然いい!
 

「大クラウスと小クラウス」
 ――小クラウスは見栄を張ったばかりに、一頭しかいない馬を大クラウスに殺されてしまい、泣く泣く馬の皮を売りに出たが、魔法の袋と偽って高く売りつけることに成功した。

 これ、よくある正直者と意地悪者の話ではないんですよね。ハリー・クラークの挿絵も、小クラウスをかなり性格悪そうな顔に描いてあって笑えます。大クラウスは腰に剣ではなく斧を佩いているというのが何とも凄まじいですが、このおかげで二枚目の挿絵で斧の柄と刃の一部を見せるだけで老婆殺害自体は描かないという効果をあげているんですよね。
 

「おやゆび姫」
 ――こどもをさずかりたい女がその種を植えると、チューリップのつぼみが開き、なかからかわいい女の子が現れた。かわいらしさのあまりガマガエルに誘拐され……。

 いかにもお伽噺といった、何にも考えてない女の子。もともと花の天使だったのだとすると、貴種流離譚のようでもありました。
 

「旅の道連れ」
 ――父に死なれたジョンは旅に出た。墓地で死体を放り出そうとしている者たちを諫めた。途中で出会った男は何でも治す軟膏と引き替えに、鞭や剣を手に入れ、死んだ白鳥から翼をもらった。町には美しい姫君がいて求婚者が絶えなかったが、姫君が考えた三つのものを当てられず首を斬られていた。

 道連れの男二人の挿し絵と、魔術師と姫君の挿し絵が掲載されています。白眉は何と言っても黒い翼を持つ美しい姫君の絵です。本文に美しいと書かれている姫君が絵でも美しく描かれているのはもちろんのこと、燃え立つ炎とも萌え出ずる草木とも紛う黒い翼が素晴らしい。
 

「皇帝の新しい服」

 言わずと知れた「裸の王様」です。
 

「幸福の長靴」
 ――幸福の女神の召使と「心配」の妖精がいた。女神の召使は誕生日祝いに女神から長靴を贈られた。その靴を履いた者はどんな場所にもいつの時代にも行けるという。昔がいいと言った顧問官は過去に行き、夜警は詩人になった……。

 三葉あるうちの最初の一枚、「夜」の描写がスタイリッシュです。黒い背景に溶け込む通行人の黒い服、闇と境目を分かつ背景であると同時に壁画を照らす明かりでもある街灯の白い光。白黒のよさが活かされています。
 

「丈夫なすずの兵隊」
 ――二十五人のすずの兵隊は兄弟だった。一人だけ足が一本しかない兵隊がいた。片足を高く上げている踊り子を見て、あの子も片足なのだと思って見とれていた。

 こちらも有名な「鉛の兵隊」。挿し絵はカバーにもなっている絵が一枚。なんかイマイチ。
 

「父さんのすることに間違いなし」
 ――その農家の父さんは馬を売ってお金にしようと家を出た。立派な雌牛を見つけ、馬と交換したが、次に羊を見つけて……。

 コウノトリ
 ――人間の子どもから馬鹿にされたコウノトリの子どもは、仕返ししたくてたまらなかった。

 みにくいアヒルの子
 

「ひつじ飼いの娘と煙突そうじ人」
 ――かざり棚の浮き彫り〈ヤギ脚将校・大将・司令長官〉と結婚させられそうになったひつじ飼いの置きものは、煙突そうじ人の置きものに助けを求め、外の世界に逃げ出したが、怖くなって元に戻してもらう。

 イマイチな絵が続く。
 

「モミの木」

 挿し絵なし。
 

「豚飼い王子」
 ――お姫さまにふられた王子さまは、こらしめてやろうと豚飼いになって城内に潜り込み、素敵な音のなる食器をつくってみせた。

 逆恨みの復讐譚なのに、なぜか教訓話みたいになっているのが怖い。挿し絵もぱっとせず。
 

雪の女王 七つの話からできている物語」

 挿し絵は五葉。鏡が作られた魔法学校、雪の女王とカイ、舟に乗ったガーダとおばあさん、頭がいいカイ、山賊とガーダ。魔法学校とおばあさんの絵がよいです。着ている服自体が魔法のように引き込まれる悪魔たち。木でできた兵隊を含む、左右対称の遠景。

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