『貴族探偵対女探偵』麻耶雄嵩(集英社)★★★★★

 貴族探偵の続編。探偵は探偵するものでも推理するものでもなく、解決するもの、という存在は銘探偵のメルにも似ているけれど、放りっぱなしのメルとは違い召使が推理してくれる分こちらの方が親切、ではあります。
 

「白きを見れば」★★★★☆
 ――亡くなった師匠の跡を継ぎ探偵となった高徳愛香は、友人の紗知に招かれて別荘「ガスコン荘」を訪れた。人が投げ込まれたという伝説の井戸を見にゆくと、男が頭から血を流して死んでいた。梁には窪み、床には血溜まりを踏んだスリッパの跡、井戸には紗知のコートのボタンが……。

 以下、愛香が論理的な推理の結果として貴族探偵を犯人だと指摘し、執事たちによって覆される――という形が続きます。愛香がミスをした原因が、手がかりの意味を取り違える、という比較的穏当な作品です。推理するのは執事・山本。
 

「色に出にけり」★★★★☆
 ――玉村依子には三人の恋人がいた。中妻・稲戸井・貴族探偵の三人を屋敷に招いた真意は不明だ。家族に取り入ろうとして占いを始めた稲戸井は、孫の占いを始めた途端に顔色を変える。やがて、部屋で首を吊っている稲戸井が発見される。依子は以前事件で知り合った愛香を呼び寄せる。

 まさに「しのぶれど色に出にけ」る作品なのですが、どんな形で出たのかというのが、まことに麻耶雄嵩らしい作品でした。推理するのは料理人・高橋。
 

「むべ山風を」★★★★☆
 ――教授会の内部データ盗難事件を解決した愛香は、準教授・韮山瞳に会いに来た貴族探偵と遭遇する。果たして学生の絞殺体が発見され、愛香はみたび推理をすることに。使用者によって色分けされているティーカップと、上下関係に厳しい被害者の性格から、愛香は犯人を割り出すが……。

 タイトルが微妙に前話のネタバレっぽくて可笑しい。これまでの作品では手がかりの解釈の仕方の問題でどうとでも解釈できそうでしたが、この作品にしてとうとう愛香は決定的な間違いをしでかしてしまいました。やはりミスした点がくっきりしているほうが切れ味も鋭いと思います。推理するのはメイド・田中。
 

「幣もとりあへず」★★★★★
 ――すっかりオカルト好きになった紗知の付き添いで、願いを叶えてくれるという座敷童子いづな様のいる温泉を訪れた愛香。同じく願いを叶えに来た下北香苗の付き添いで現れたのは貴族探偵だった。希望者は六人。田名部優という名前に、愛香は聞き覚えがあった。

 本書中で一番の問題作。不自然というよりはギャグに近い形で警察と連絡手段が排除されたので、何となく仕掛けの見当はつくわけです――が、そこは麻耶雄嵩、そんなもんで終わらないだろうなと思いつつ読んでいると、顎がはずれるくらいの衝撃が待ち受けていました。地の文に嘘を書いてはならないという本格ミステリの不文律に、三人称一視点という小説のお約束を、こうも挑発的に用いるとは、頭が下がります。愛香は前話よりさらに大きな凡ミスをしてしまいます。推理するのは運転手・佐藤。
 

「なほあまりある」★★★★★
 ――匿名の依頼人から高額の申し出を受け、元伯爵・具同政次の所有する亀来島を訪れた愛香。そこで待ち受けていたのは依子と、その恋人・貴族探偵だった。その夜、使用人の平田が殺され、政次の孫・佳久の先輩・葉子も死体で発見された。部屋の様子に不審を抱いた愛香は、豪雨で来られない警察に代わり、捜査を開始する。

 連載ではなく書き下ろしであるため、本書のほかの作品も伏線になっていました。また、犯人がおかしな行動をした理由が、このシリーズならではのものであるうえに、貴族探偵が探偵たるゆえんも作品の結構に関わっており、本書の掉尾を飾るに相応しい作品でした。

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