『ココロ・ファインダ』相沢沙呼(光文社文庫)★★★☆☆

「コンプレックス・フィルタ」★★★☆☆
 ――恋をした。自分の名前は嫌い。鏡の子、だなんて意味がわからないよ。癖毛、ニキビ、一重瞼。ミラ、と呼ばれるたびに笑ってしまう。鏡を見れないミラ子。なんて矛盾だろう。ねぇねぇ、とはしゃくカオリにつられて、猫に向かってカメラを構えてレンズを向ける。サッカー部の鳥越くんの駆け抜ける姿。わたしもカオリみたいに生まれたかった。九月の半ばになってカオリが部活に顔を出さなくなった。シズと喧嘩したらしい。「どうして写ってないの?」と言って。

 思春期ゆえのコンプレックスが鮮やかに切り取られていました。デビュー作に露わなように、この著者の思春期萌えには爽やかというよりは気持の悪いところもあり、この作品の語り手も自分の不幸に酔っているようなところがあるのですが、語り手のコンプレックスとは別のコンプレックスをミステリの形で明らかにすることで、切れ味と説得力が生まれていました。
 

「ピンホール・キャッチ」★★☆☆☆
 ――部室に戻ると、珍しくミラ子先輩しかいなかった。写真の印刷の仕方がわからずに困っている。「あれぇ、秋穂。これなんだろ?」「なんですか?」先輩のSDカードの「works」というフォルダに、壁ばかりが写し出されていた。見覚えのある、この学校の壁だ。ピントも合っている。誰が、何のために?

 不気味な謎ですが真相にはさほど意外性はありません。が、一話目とは違ったタイプながらこれも思春期ならではの秋穂のコンプレックスと関わっており、そういう意味ではうまく出来ています。一話目でトラブルのきっかけとなったシズが、サポートと探偵役を務めます。
 

「ツインレンズ・パララックス」★★★☆☆
 ――告白された。「ずっと、好きだったんだ」ずっと? あたしはたまらずに一歩を踏み出し、頬を叩いた。放課後。「何か手伝うことある?」文化祭の準備中、躊躇うように声をかけたのは、中里さんだった。どのグループからも断られたみたいだ。映子のことを思い出す。「中学校のときの、苦い思い出を教えて」みんなから無視されていた映子のことをシズに話したのは、一年くらい前だった。

 どうして鏡は左右が逆に映るのに、上下はそのままなの? という疑問の答えが真実を穿つ、カオリのもう一つのコンプレックス。その答えとともに、「フィルムカメラが好きなくせに、ホント現像しない」カオリや、ミラ子の目から見たカオリとは違うイマドキなカオリの、さまざまな事情が明らかになるのが圧巻です。
 

ペンタプリズムコントラスト」★★★★☆
 ――写真を撮りたい。文化祭が終わるとすぐに、両親は予備校のカリキュラムを増やした。わたしの成績ならいい大学に行ける。いい大学ってなんだろう。今朝は部室に足を運んだ。文化祭の写真を片付けるためだ。一枚だけ、日焼けしている。わたしが撮ったカオリの写真だ。どうしてだろう。この一枚だけ、インクジェットプリンタで印刷されているのだ。

 最終話の語り手はシズでした。孤高だと思い込むことで気づかずにいた、他者の悪意と友人たちの優しさに、日焼けした一枚の写真がきっかけで同時に気づかされるのが、感動的です。四篇いずれも、謎とその真相――謎解きによって愛情やコンプレックスがあぶり出される、上質のミステリでした。

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