『けむたい後輩』柚木麻子(幻冬舎文庫)★★★★★

 けむたい後輩、というタイトルからすると、あるいは主人公は栞子なのでしょうか。他人とは違う自分をアピールし人からちやほやされ芸術家を気取りたいためにすかしてみせる――そんなかつての「天才少女」に、本気で心酔する後輩が現れるとは。

 栞子は自尊心さえ満たされれば誰でもいいのです――が、そりゃあ女よりは男のほうがいい。けれどそんな栞子の胸のうちなど忖度せず、真実子は栞子の気取りを真に受けてひたすら尽くそうとします。

 栞子は嫌なヤツですが、そうやって栞子視点で見るならば、ひたすら可哀相なヒトです。女子アナを目指す美人の里美に男の目を持って行かれるのは口惜しいながらどうにもならないことといえ、安全パイ(であるはず&自尊心を満たす道具であるはず)の真実子にすらチヤホヤ状態を奪われてしまうのですから。

 天真爛漫を絵に描いたような真実子ですが、もちろん一人の人間であり、マスコットなどではありません。ですが親友の美里ですら、ややもするとそんな当たり前のことを見失ってしまいがちです。入院時代の真実子の体験を知って美里は愕然としますが、それよりも驚いたのはその体験に対する真実子のものの見方です。クールというか謙虚も度が過ぎているというか。

 エピローグは衝撃的ですが、真実子が突然変わったわけではなく、もともと割り切った考え方をする人だったのでしょう。

 美里や栞子からすら指摘されてしまうほど空気が読めない真実子なので、ショージキ読んでいてイラッと来る場面も多々ありますが、多くの柚木作品同様、基本的に読んでいて気持の良い作品でした。

 14歳で作家デビューした過去があり、今もなお文学少女気取りの栞子は、世間知らずな真実子の憧れの先輩。二人の関係にやたらイラついてしまう美人で頑張り屋の美里は、栞子の恋人である大学教授に一目惚れされてしまう――。名門女子大を舞台に、プライドを持て余した女性たちの嫉妬心と優越感が行き着く先を描いた、胸に突き刺さる成長小説。(カバーあらすじ)

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