『探偵は友人ではない』川澄浩平(東京創元社)★★☆☆☆

『探偵は友人ではない』川澄浩平(東京創元社

 不登校の少年と幼なじみの中学生を中心とした日常の謎と瑞々しい感性が印象深かったデビュー作『探偵は教室にいない』の続編です。ですが、どうしちゃったの……というくらいに出来が悪くなっていました。正確に言えば出来が悪いというより、ミステリ部分よりも青春部分の比重が重くなっているということなのでしょうか。
 

「第一話 ロール・プレイ」★★☆☆☆
 ――エナとバッシュを買いに行ったとき、バスケ部のOB鹿取先輩と会い、先輩が小学生のとき塾の友だちだった鳥飼歩の話になった。塾講師の大学生バイト水野先生の演劇を観に行ったとき、失敗した水野先生を歩が非難して以来、絶交してしまったという。今はわたしたちの中学の英語教師になっていた水野先生と話してみたが、「演劇に向いてない方がまだよかった」という謎めいた言葉を残すのみだった。わたしは当事者の歩に当時の事情を聞いてみることにした。

 水野先生が客席の携帯オフに厳しかったというのが伏線として不自然すぎるうえに厳しい理由も定かではないので、作られた謎と真相という印象が強すぎました。水野先生の演技の実力もよくわかりません。意欲的だが下手なのか、実力はあるが歩たちが観たときミスっただけなのか、ヘタウマな実験的な作風なのか。芝居好きの間で有名という描写もまた、評価されているという意味なのか、変人として有名という意味なのか、美人だから有名という意味なのか。

 小学生の他意のない不行跡を許せない大学生の若さという苦さ痛々しさに満ちた事件そのものについては、前作同様の切れがあるだけに、もうちょっと整理してほしかったところです。
 

「第二話 正解にはほど遠い」★★☆☆☆
 ――「真史先輩!」後輩の彩香ちゃんがやけに懐いてくるようになった。鹿野先輩の妹である彩香ちゃんは、歩と鹿野先輩が仲直りしたきっかけを作ったわたしのことを尊敬しているのだという。実家の洋菓子店で出すクリスマスのクイズにわたしのバッシュを使いたいから貸してくれと言われたときにはさすがに困惑した。だがクイズに正解すればケーキをくれるという言葉に負けてしまった。クリスマスツリー、サンタ、枕それぞれにバッシュが写った写真と、松ぼっくりの写真。2枚の雪だるまの写真のどちらかが正解だという。

 第一話では不登校の探偵の旧友との仲直りが描かれており、この第二話では探偵が幼なじみへの思いと向き合わざるを得ない状況に立たされていることから、本書はミステリよりも登場人物の成長に重きを置いているようです。

 クイズにしては必要な知識に偏りがありますが、クイズに隠された個人的なメッセージだと明かされればなるほどまあわからないでもありません。
 

「第三話 作者不詳」★☆☆☆☆
 ――美術準備室にあった右手の絵がわたしの右手に似ているのが気になった。エナと聡士くんと京介くんと行った初詣で柳先生を見つけ、悪戯心から尾けてみると、先生は沖縄ショップで買い物をしてから、振り返った。どうやら尾行はばれていたらしい。年が明けて五日目、バスケ部の自主練習から帰ろうとすると、生徒会の用事で登校していた彩香ちゃんに会った。美術部でもある彩香ちゃんに似顔絵を描いてもらおうと美術室に行くと、なぜか鍵は開いていて、沖縄の本が置いてあった。柳先生の沖縄旅行のお土産だという。

 前二話も無理矢理感の強い作品でしたが、この作品はもはやロジックのためのロジックのようで読むのにも苦労しました。お土産に関する噓が第四話へのガイドラインとなっていたり、不登校に対する教師の対応からは歩の将来を予感させたりと、作品全体として意味のある話ではあるのだとは思います。
 

「第四話 for you」★★☆☆☆
 ――聡士くんのお姉さんがアルバイトしている喫茶店で、不思議な話を聞いた。喫茶店の休憩室には二時を指したまま止まった時計があるのだが、今は十二時を指しているという。店長が生まれる我が子のスタートを意味して零時に動かしたのだとして、では二時にはどういう意味があるのだろうか。「鳥飼くんに解いてもらいなよ」という言葉にはうなずけなかった。これまで歩に会ったのはどうしても解いて欲しい謎があるときだけだ。仙台への家族旅行。歩にお土産を買うべきか迷っていると、歩から電話が来た。今はサンフランシスコだという。

 最終話でタイトルが回収されます。時計の謎は「謎がなければ歩に会いに行けないのか?」というマクガフィンのようなもので、歩によるあまり説得力のない推論はありますが真相は不明のままで、実際真相は重要ではありません。謎がなければ会いに行けないというのはつまり謎があれば会いに行けるということなのですが、探偵の方からは来てくれないかぎり会いに行けないということでもあります。その状態をどうクリアするか、二人ともがそれぞれ歩み寄る【※ネタバレ*1】のがテーマに相応しかったです。

 わたし、海砂真史の幼馴染み・鳥飼歩はなぜか中学校に通っておらず、頭は切れるが自由気儘な性格で、素直じゃない。でも、奇妙な謎に遭遇して困ったわたしがお菓子を持って訪ねていくと、話を聞くだけで解決してくれた。彼は変人だけど、頼りになる名探偵なのだ。

 歩の元に次々と新たな謎――洋菓子店の暗号クイズや美術室での奇妙な出来事――を持ち込む日々のなかで、ふと思う。依頼人と探偵として繋がっているわたしたちは、友人とは言えない。でも、謎がなくたって会いたいと思った場合、どうすればいいのだろう?

 ささやかな謎を通して少年少女の心の機微を描いた、第28回鮎川哲也賞『探偵は教室にいない』、待望のシリーズ第2弾!(カバー袖あらすじ)

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 探偵は友人ではない 




 

 

 

*1 歩は嘘をついてお土産を渡す。ウミの方で逆に謎解きをする。

*2 

*3 


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