『水光舎四季』石野晶(徳間文庫)★★★☆☆

 文庫書き下ろし。

「スプリング・スクール」★★★☆☆
 ――自分が特別な人間だと思ったことはなかった。植物の言葉は当たり前のように潤也の耳に届いてくるものだった。それがこの四月から、特期生(特別能力期待生)となって三か月間、水光舎に入ることになった。潤也は「庭師」として授業を受ける。十八歳で卒業した前任の〈春〉担当者の後任だった。同室の宗一は「陶芸家」だ。

 特殊な能力こそ扱われていますが、本質的には、人見知りのする少年がみんなに打ち解けるまでの物語、と言えそうです。〈冬〉から洗礼を浴び、虫をつけられてしまったクレマチスをどうやって救うのか――という謎仕立てすらも、そこに向かうための手段でした。人見知りで新入りであるにしても、潤也がちょっと頼りなさ過ぎでいらいらしました。
 

「サマー・スクール」★★★★☆
 ――春が終わっても家に帰らずに、水光舎に留まると言い出した真澄に、歴代の特期生女子が集う掲示板はこぞって賛成してくれた。日誌のやり取りを通して好きになった〈夏〉に会うために――掲示板のみんなはそう思って盛り上がっていたが、実際には、一週間の沈黙のあと、別人のように変わってしまった〈夏〉が心配だったのだ。「春の人間がなんでここにいる?」彼の口ぶりは冷たかった。

 今回登場するのは「画家」で、描いた絵が実際に動き出してしまう能力を持った人間です。なかでも真澄は能力が強くコントロールが利かず、肖像画が当人の秘密をぽろりと口にしてしまったりするほどでした。しかしながらそうした強すぎる能力ゆえに、すでにこの世にいない人間と会話するという、普通では考えられない状況が生まれています。それが生者の見たがっている都合のいい真実なのか、上手く描けさえすれば実際の当人そのものであるのかは、この際関係ありません。大事なのはそれで生きている人間が救われたということでしょう。
 

「オータム・スクール」
 

「ウインター・スクール」

 ちょっとリリカルで瑞々しすぎるので、半分で読むのをやめました。

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