『まるで天使のような』マーガレット・ミラー/黒原敏行訳(創元推理文庫)★★★☆☆

 『How Like An Angel』Margaret Millar,1962年。

 マーガレット・ミラーの代表作、新訳です。

 ギャンブルで一文なしになった私立探偵ジョー・クインがヒッチハイクの末に降ろされたのは、新興宗教団体の暮らす〈塔〉と呼ばれる場所でした。一夜の宿を借りたクインは、〈祝福の修道女〉から、教団の人間には内緒で「パトリック・オゴーマンという人を見つけてほしい」と頼まれます。〈荊の冠の修道士〉のトラックで町まで乗せてもらったクインは、そこでオゴーマンが失踪(おそらくは死んでいる)ことを知ります。

 詳細を知りたくなったクインは、町の新聞社を訪れ、当時オゴーマンの失踪と同じころに新聞を賑わせた横領事件の話を聞きます。同時期に起きた二つの事件には関連があるのか? 接点のないはずのオゴーマンと修道女の関係は?

 ひとまず報告しようと〈塔〉に戻ったクインは、そこで罰を受けている〈祝福の修道女〉を見て愕然とします。教団で暮らす若い少女ににきび軟膏を頼まれるという思わぬ事態に遭いながら、クインは〈塔〉をあとにし、ふたたびチコーテの町に戻りました。

 オゴーマンの未亡人マーサや横領犯アルバータとの面会、その兄ジョージ・ヘイウッドの不穏な行動をさぐるうち、クインの頭には一つの考えが浮かびあがります……。

 この本を読む前に気をつけなければならないことが一つあります。

 絶対に帯の文章を読んではいけません。もちろん解説も。

 解説はともかく、帯は嫌でも目に飛び込んで来ますから、予備知識を持って本書を読むことになってしまいました。

 そのせいで意外性を楽しむことはできませんでした。

 いやしかしながら、登場人物たちの異様性には目を瞠るものがあります。犯人の狂気は言わずもがなとして、真相を知ってから振り返ると、横領犯アルバータの現状の惨めさには目を覆いたくなります。さすがに佯狂ではなさそうですので、アルバータたちのやったことすべては無駄だった――と思えばこその狂気なのでしょう。

 題名はエピグラフにもある『ハムレット』より、「人間は造化の神の傑作だ、……天使のような行動力、神さながらの理解力。……だが、それが何だ、俺にとっては塵のかたまり。人間を見ても楽しくない――女だって同じだ。……」から採られています。

 いやまあ確かに行動力はあるのですが、何とも皮肉なタイトルです。

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