久しぶりのホームズ特集ですが、さすがにネタ切れ感は否めません。
「シャーロック・ホームズ講座」日暮雅通
実際の講座を文章化したもの。目新しいことも興味深いこともあまりなかったわりに、初心者向けとしてならマニアックすぎて、どっちつかずでした。コナンというのがミドルネームではなくコナン・ドイルという複合姓だとは知らなかった。
「オリジナル版 青いガーネット」テレンス・ファハティ/日暮雅通訳(The Blue Carbuncle,Terence Faherty,2016)★★☆☆☆
――クリスマスの翌日、我が家に集まってきた乱暴者たち(「メアリの編み物友だち」に変えること)の襲撃から、からくも逃れた私は、ベイカー街へ急いだ。ベイカー街に着くと、椅子に帽子が掛かっていた。「こいつをどう思う?」ホームズにたずねられて私が帽子をかぶってみると、耳まですっぽりかぶさった。「持ち主はかなり知能の高い人物だ」「食べ過ぎて頭まで太っただけだろう」
これまで「ボヘミアの醜聞」「赤毛連盟」「花婿失踪事件」「唇のねじれた男」の四篇が訳載されているオリジナル版シリーズの一篇ですが、さすがに飽きてきました。H・Bがヘンリー・ベイカーというよくある名前ではなく、ヘンリー・バターマンだったのには笑いました。
そのほか高殿円によるシャーリー・ホームズものの新連載と北原尚彦によるジョンとシャーロックものの新作。
「ポッター――ロウランド・ハーンの不思議な事件」ニコラス・オールド/小林晋訳(Potter,Nicholas Olde,1928)★★☆☆☆
――ハーンとわたしは野生動物商ポッター&ハーラ社の社屋を訪れた。ポッター氏には会えなかったが、ハーラ氏とポッターと名づけられた禿鷹には会えた。その後、ポッター氏が熊に襲われて死亡した。
ホームズとは無関係ですが探偵コンビものということで選ばれた作品。禿鷹が犯人を襲う場面こそ恐ろしいものの、探偵ものというスタイルが完全に作品をぶち壊していて、熊に襲われた真相は恐ろしくも何ともありませんし、呪い云々にいたっては失笑の極みです。
「忌子のなみだ」町田そのこ(2019)★★☆☆☆
――問題ばかり起こしていたうえに最近は認知症だった権田のじいさんが殺された。牧歌的な町で起きた殺人事件は子どもたちに大きなショックを与え、登校できなくなった子もいた。弓削のクラスにも欠席者がいた。正道は二年前に権田のじいさんに誘拐されたことがあっため、殺人をきっかけに当時の恐怖が甦ったのだろうと考えられた。正道の父親は母親に殺されていたため、狭い田舎では殺人犯の子として徹底的ないじめに遭っていた。
これまで読んだ「おわりの家」も「蛍火が消える晩」も、不幸な家庭環境と人間の嫌な部分が描かれながらも読後感は悪くないという作品でしたが、本編でも人間の厭らしさは健在で、田舎のクズさと人間のクズさがたっぷりと描かれていました。ただし本編の場合は登場人物全員クズなので、さすがにちょっといい話ふうに終わられても違和感が残りました。
「ミステリ・ヴォイスUK(112)子供のころに読んだ本」松下祥子
「時代劇だよ!ミステリー(11)「応仁の乱」の張本人!? 日野富子」ペリー荻野
「書評など」
◆ポケミスジョーダン・ハーパー『拳銃使いの娘』は、父と娘の交流もの。いくつか挙げられている作品のなかに『ペーパー・ムーン』があるのは、実際に思い浮かばせるところがあるのか単に父と娘の交流ものだからなのか。面白そうではあるものの、あらすじを読んだかぎりではこの父親はただのトラブルメイカーにしか思えないので、そこらへんがどう描かれているのかで面白いかどうかは変わりそう。
◆ラヴィ・ティドハー『黒き微睡みの囚人』は、ヒトラーとナチスが覇権を取れなかった世界というifもの。ヒトラーものはよくあるので食指が動かなかったのですが、私立探偵になっているヒトラーの「偏見と憎悪と猜疑心に基づく彼の行動は、しかし結果として「ハードボイルド探偵」らしいものになってしまう」というのが面白い。
◆国内では『屍人荘の殺人』の大型新人の第二作今村昌弘『魔眼の匣の殺人』もすでに話題になっているようです。
◆「Crime Column(409)」オットー・ペンズラー/大谷瑠璃子訳
ウッドハウスの「オマージュ」と表現されているのは、ジーブスとバーティが諜報活動をしていたというベン・ショット『Jeeves and the King of Clubs』。ジーブスシリーズのおかしさがしっかり再現されているそうです。
「迷宮解体新書(109)今村昌弘」村上貴史
「ナツヤスミノシュクダイ」一田和樹(2019)★☆☆☆☆
――「木村くんは、このままだと殺人犯にされちゃうよ」アッキーと名乗る少女は達也にそう言った。完全犯罪を行う「ギデス」というネットのチームがあり、達也の同級生・川崎がそのメンバーであるらしい。
予定調和な内容と今風の文体。少女に対する語り手の目線で、この人が気持ち悪い人だとわかるので、単なる当然の結末でした。
「はっぴい・えんど(再録)」皆川博子
日下三蔵編の単行本未収録短篇集『夜のアポロン』から。
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