『Ascenseur pour l'échafaud』Noël Calef,1956年。
映画化があまりにも有名な作品の、原作小説です。
浮気性の夫と、嫉妬深い妻のやり取りから、小説は始まります。夫のジュリアンは何か企んでいるらしい。やがて夫は同じビルの高利貸しを訪ね、借金の猶予を迫りますが、聞き届けてはもらえず、持っていた拳銃で高利貸しを射殺します。自分の指紋をぬぐい自殺に見せかけ、いざビルを出たところで借用書をオフィスに置き忘れてきたことに気づいたため、誰もいないビルのエレベーターに乗り込んだところ、エレベーターは途中で止まってしまうのです。翌日になり誰かが出社してきて、死体と同じビルのなか一人きりで発見されようものなら、言い訳はできません……。
……と、ここまでは、エレベーター内に閉じ込められたスチール写真でもお馴染みの、ストーリーでした。
さして盛り上がらない脱出サスペンス、という印象でしたが、ここから、物語は同時進行型へと切り替わります。すぐに戻ってくるつもりでジュリアンがエンジンをかけたままにしておいた自動車を盗んだ若いカップル、そのカップルを目撃して夫の不倫現場だと勘違いする妻ジュヌヴィエーヴ、ジュヌヴィエーヴの訴えに迷惑げな兄のジョルジュ夫妻、失踪人探しのジヴラル刑事、心を病んだ妻を施設に入れようと旅するブラジル人。
驚くべきことに、サスペンスすらありませんでした。
やがてもう一つの事件が起こり、ある結末を迎えるのですが、総じて中途半端で細部が雑すぎます。
はじめの高利貸し殺しからしてお粗末で、綱渡り以前の問題です。結末でジュリアンが追いつめられる状況も、もう逃げ道はないという感じではなく、ゆるゆるすぎてしっくりきません。退廃的な感じのカップルの死や、思い込みが強くて信頼できない管理人の妻、裏目に出てしまう身内の証言など、外堀自体は印象的ながら、それらががっちりと結びつけられるのでもなく積み重ねるように襲ってくるのでもなく、「だから察してね」という感じで、ジュリアンの絶望感がまったく伝わって来ないのです。
完全犯罪を実行したジュリアンは、無人のビルのエレベーターに閉じこめられてしまう。36時間後にようやく外に出た彼を待ち受けていたのは、まったく身におぼえのない殺人容疑だった。アリバイはあるはずもなく、閉じこめられていた理由は決して明かせない! 偶発する出来事が重なり、追い詰められていく男の苦悩と恐怖。胸苦しいほどの焦燥を見事に描ききった超一級サスペンス。(カバーあらすじ)
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