レム作品のなかでもかなり有名な、架空の書物の書評集です。
まずはヤラレタ!と思ったのが、序文自体がすでに書評という体裁になっていることでした。本書『完全な真空』の序文が、レムの書いた書籍『完全な真空』についての書評になっているのです。ここまで徹底しているとは思ってもみなかったので、それだけでうれしくなってしまいました。
ほかに『オデュッセイア』を下敷きにした『ユリシーズ』に対し、『ギルガメシュ』を下敷きにした『ギガメシュ』を評した作品は、その書評自体が「『ユリシーズ』評論」のパロディのようにもなっていて、これまた凝っています。
序文で「大作の概略を示す草案」と書かれた作品の一つである、「親衛隊少将ルイ十六世」は、ルイ十六世時代に憧れる元ナチ将校が怪しげな知識をもとにアルゼンチンに自らの理想とする国家を建設する、という、実際に読んでみたくて仕方がなくなるような歴史小説です。
「とどのつまりは何も無し」は、「~はない」という否定だけで書かれた問題作を扱った書評です。
最後には嬉しい驚きが。訳者あとがきさえも書評の形が取られていました。
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